何も言えなくて俯くと、
「こっち見ろよ。」
と言われ、顔を上げるとまたりくと目が合う。
「なあ、なんで泣いてんの?言えないってことは俺が原因?」
私の右腕を掴む力が強くなる。
「なあ…」
力が抜けたようにそう言うりくの瞳が少し潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「あの、ごめんなさ…」
ごめんなさい とちゃんと最後まで言えなかったのはりくの腕の中に収まってしまったからだということに気付くのに、そう時間はかからなかった。
「なんでっ」
私を抱きしめているりくの力がどんどん強くなっていく。
「おまえチビだからすぐに収まったな。」
りくが今どんな顔でどんな気持ちでそう言っているのかはわからないけど、少しだけ声が震えていた。
チビじゃないし。そう言いたかったけど言葉が詰まって出てこなかった。
「俺さ、」
りくは言葉を続けようとする。聞くのが怖くて耳を塞ぎたいのに、抱き締められているから塞げない。代わりに目をキュッと強く瞑った。するとパッと体が離れて、目を開けて見るとりくが少しかがんで私の顔を覗き込んでいた。身長が178㎝のりくからしたら、私はとても小さい。
「みか、聞いて。」
真剣な眼差しで私の目をじっと見つめるりくから目が離せなくなった。
なんだか妙に緊張して、言葉が出ない代わりにこくりと頷いた。
「俺、好きな奴がいたんだ。」
そう言って一呼吸置くりくの次の言葉を待つ。目を逸らしたくてたまらないのに、逸らしちゃいけない気がしてりくの瞳を見つめる。
もしかしたらりくも私のことが好きなんじゃないかなんていう期待は、一瞬で打ち砕かれた。
「そいつ、みかとそっくりで。笑った感じとか、性格とか仕草とか。だからみかのこと放っとけなくて。俺振られたのに諦めきれなくてみかに会ってからまた思い出したんだ。それでみかのことが気になって。でもそれはみかのことが好きとかそういうわけじゃなくて。みかといると、ゆいのこと思い出せるから。ほんとにごめん。おれ…。」
「もういいよ。」
りくがまだ続けようとするから遮った。これ以上聞いていても仕方ない。