「汐音だって将来どうするの?あと1年ちょっとしたら高校卒業しちゃうよ?」
それはこっちの台詞だ、と密かに思う。
「取り敢えず、大学は出ておきたいな…まだちょっと就職は考えられないし」
「そっか…汐音頭いいから大学出ておいて損はないよね」
「そうね…」
ーーキーンコーンカーンコーン…
「あっ、予鈴!じゃ、汐音、また後でね!」
丁度会話が途切れたところでチャイムが鳴った。
紅葉がパタパタと自分の席へ戻る。
本音を言えば、なりたい職など無かった。
幼稚園や小学校の頃はそれは多大に夢があったけれど、小学校高学年ともなると、もう世の中の現実は大体分かってくる。
中学校になれば、現実を見て、自然と夢は作らないようになっていった。
中2になって、あのことがあってからは、もう夢を作りたいとも思わなくなっていた。
何もかもどん底だったから。
自分から紅葉に問いかけておいて、自分は何も言わないとか、卑怯だったな。
紅葉は何もかも知っているから、分かってくれてはいただろうけれど。
本鈴が鳴って、HRが始まった。
窓を盗み見て、空を覗いた。
白が混ざらない空色は、代わりに私の心の空に、雲を流し込まれる感じがした。