私の目の前で立ち止まった富谷遥樹が手を差し出したので、その上にボールをぽん、と乗せる。



「ん、ありがとう」



微笑まれながら、一言そう言われた。



一瞬、私の方を向いたかと思えば、すぐ立ち去ってしまう。



向かい合うとよりはっきり分かるが、やっぱり富谷遥樹はイケメンだ。


今だったら黄色い歓声をあげる女子たちの気持ちも分からないでもなかった。



あの笑顔に何者をも引き寄せる力があるのか、そう感じる。



「………ねぇ………ちょっと………!!やばい!ねえどうなの汐音!あんな笑顔向けられたら倒れる!私富谷くんのファンじゃないけど倒れる!心臓抜かれる!!」



でも、朔くんだったらもっと良かったなぁ…



紅葉はそんな贅沢を言う。



「うん、なんか、騒ぐ女子の気持ちが分からないでもなくなってきた」



紅葉が言っていることも冗談ではなかった。


私でさえあの微笑に引き込まれそうになったのだ。


ファンの女子はそれだけで済まないだろう。




実際そうだった。


周りを見れば、口をぽっかりと開け、目はハートになり、頬は紅く染まっている、という女子が殆どだった。