厚い雲がかかった空は、放課後になっても晴れることはなかった。
3年前のあの出来事を思い出すといつもこうだ。
情けないほどに自分が弱かったあの頃。
本当に弱かった。
全てを忘れたかった。
それでも、それでも忘れられないのは、
きっと。
「汐音!汐音!どうしよう!!体育館行かなきゃ!!」
ああ、今でも生きられてるのは紅葉のお陰かな。
なんて、ふと思う。
悟られないように、
「どうしたの?」
静かに言葉を返した。
「富谷君がっ!富谷遥樹君が!!バスケするらしいの!!制服で!!!」
「富谷遥樹って……あのイケメンって騒がれてる?」
「そう!そうなの!!」
紅葉は何処からそんな情報を手に入れるのか…。
紅葉の噂好きは今に講じたことではなくて、私が初めて会った頃から既にそうだったのだから、尋常ではないものだろう。
そして同様にイケメン好きも。
「しーおね!!何ボケっとしてんの!行かなきゃ!!汐音も!!」
「…………………はぁあ??」
私が?行く?何故?
「と言うか来て!!お願い!!」
紅葉は上目遣いに頼んでくるものだから、
しょうがない。行ってあげよう。
「分かった。行くから。でも何で来てほしいのよ?」
「いいから!!説明は後でね?」
紅葉に腕をパシっと捕まれ、ズカズカと歩きだした。
「ちょっ?!!紅葉!?!」
今になって、簡単に行くとか言うもんじゃ無かった、と少しだけ後悔することとなった。