お前を笑顔にしたいだけ





「だからここに連れて来てくれたんだ」
「だったらなんだよ」



「……ふふっ、変なやつだね」



思わず笑みがこぼれてしまう。
本当に自然に漏れた笑み。



久しぶりに心から笑った気がする。



「……」
「……村田?どうしたの?」



そんな私を見て固まる村田。
かと思えば突然……



「……っ!?」
「なんだ、お前。ちゃんと笑えるじゃん」



頬をつねられてしまう。



そんな村田は優しく笑っていて。
何故か泣きたくなってしまった。



「やっぱりお前、俺のお気に入りだわ」



また訳のわからないこと言い出す村田。
やっぱり晴樹と違う。



でも、一つだけ。
一つだけ、名前以外に共通点ができた。








それは、優しいところ。



晴樹と違ってその優しさは不器用で、言ってくれないと気づかなかったけど意外と周りを見ていた村田。



「でも、いつから私のこと見てたの?」



つねられた後の頬に軽く手を添えながら聞いてみた。



村田の見ている時に私、笑ったことあるっけ。



そもそも村田、学校来てないし同じクラスになってからの日も浅い。



じゃあ残すは……



「一年の時、なんとなくお前が目に入っただけ。
下手くそな笑い方だなって」



私の予想は当たっていた。



今はその馬鹿にした言い方に腹が立たない。



「そっか。
一年の時から私のこと知ってたんだね」



「うるせぇ」



恥ずかしいのか、そっぽを向いてしまう。
なんか、かわいい。



さっきまであんな嫌だったのに、今は心が温かいから不思議だ。



感情の変化って恐ろしい。







「……村田」
「なんだよ」



「ありがとう」



自然に出たお礼の言葉。
本当に感謝してる証。



「でも………村田の彼女っていうのは訂正して」



「は?無理だし」
「せめて友達にして!」



「もう今更だろ、諦めろ馬鹿」



これじゃあ誤解が生じてしまう。
これからの学校生活に支障をきたしかねない。



「彼女になる許可はしてない」
「俺が言った時点でお前は俺の女になったんだよ」



どうやらこれに対しては折れてくれないようで。



これじゃあ優しいのか優しくないのかわからなくなる。



第一、どうして私を彼女にしたがるのか。



私のことが好きなのは絶対ないだろうなと思いながら、久しぶりに本当の自分に戻った気がした。







「本当に大丈夫なの!?」
「大丈夫だって」



「絶対脅されてるよね!?
私から村田に言ってあげる!」



それから一週間経ったある日の朝。



私は汐と数人のクラスメイトから詰め寄られていた。



実はあの日以来、村田とお昼を過ごしていて。
だからといって特に何もない。



晴樹のこと話したわけじゃないし、村田とあまり話さない日もあれば結構話す日もあって。



だけど沈黙が苦、だなんて一回も思ったことがなかった。



「洗脳されてる…!」
「里穂ちゃん、無理しなくていいんだよ」



「本当は付き合ってないよね…!?」



心配そうに見つめてくるクラスメイト。
汐に至っては洗脳されてると言ってくる始末。



「付き合ってないよ?でも、洗脳もされてないから…!


ほら、友達になったっていうか……そう!
更生させようと思って!」



ちょっと苦し紛れの嘘って、バレバレだったよね。







じゃあどうしよう、と悩んでいたら…



「そっか、更生か…!!
さすが里穂、正義感が強いんだね!」



「それなら応援するよ!」



まさかの全員信じてくれて逆に心が痛い。



でもとりあえず恋人じゃないって誤解は解けたから一安心。



その後すぐ、チャイムが鳴って授業が始まる。



そして前の席を見ると、珍しく空席で。



……どうしたんだろう。



ここ一週間、朝からちゃんと来ていた村田が休んでいるなんて。



でも私が気にするのも変だと思い、あまり気に留めないで授業に集中した。



そして二時間目はたまたま移動教室で、北館の三階に行く。



利用した階段は一番端ではなく中央の階段で。



やっぱり中央の階段を利用する人が多い。
というかほとんどだ。







なんて思いながら移動教室の指定された席に座り、二時間目が始まる。



まだ村田は来ない。



……あ、そうだ。



サボっていて、もしかしたら屋上にいるかもしれない。



そう思い、授業が終わったら見に行こうと思った。



なんでこんな村田のことを気にしているのかはあまり考えないでおいたけど。



それからまた授業に集中するとあっという間にチャイムが鳴る。



汐に一声かけ、私は人がいない端の階段を上り屋上の扉を開けた。



すると……



見慣れた姿が視界に映った。
それは一人の金髪男で。



屋上の真ん中で目を閉じ、眠っていた。



嫌なことがあったらここに来るって言ってたくせに、結局サボりか。







こうなれば起こしてやる。



そう思い、私は村田の近くでしゃがんだ。



「う、わ……」



何この寝顔。
普通にイケメン。



憎いくらいだ。



普段は金髪とピアス、その上睨むように相手を見てくる鋭い目つきで、怖いと印象付けられているのが本当にもったいない。



これ、絶対モテたよ。
モテたくないからわざと不良になったとか?



……絶対ないな。



何か理由があるはずだ。



じーっと村田を見つめる。
起こすのがもったいないくらい綺麗な寝顔。



そう、もう二度と目が覚めないんじゃないかって思うくらい綺麗な……



「……え…?」



今、私は何を考えようとした?







はっと我に返り、もう一度村田を見る。



本当に綺麗な寝顔。
でも、なんだろう。



心臓の音が速くなる。
嫌な感じの音の立て方。



そんな中、村田から目を離せないでいたら……



「……きゃっ!?」



突然身体が引っ張られ、バランスを崩してしまう。



急いで床に手をつくけど、目の前には村田の顔があって。



目は開かれていた。



「お、起きてたの……!?」



「今起きた。で、何?
寝込み襲う気だったのかよ」



「ち、ちが……!」



確かに今の状況は私が村田を押し倒しているようになっているけど、村田が引っ張ったからこうなったわけで…!



慌てて離れようとしたけど、その前に背中に手を回され引き寄せられてしまう。







ぎゅっと力強く抱きしめられ、逃げられなくなる。



ドキドキと鼓動が速くなった。



変な、感じ。



嫌と言うべきなのに嫌じゃない。
何故か、村田に抱きしめられて落ち着く自分がいた。



何もう心許してるんだ自分。
馬鹿みたいだ。



「……一週間ちょっとでこんなにも態度変わるんだな」



「う、うるさい…!
離して…!」



「無理。起こした罰としてあと少しだけこのままだからな」



村田は力を強め、私も諦める。



このままでいたいだなんて思うのは、きっと久しぶりだからだよね?



こうやって誰かに抱きしめられるのが。