でも……
どう、して?
どうして私の降りる駅を村田が知っているの?
言った記憶なんかない。
村田はそのまま電車を降り、私も後をついて行く。
改札を出て、ようやく村田の隣にいけた。
「お前が先行かねぇと道、わからねぇんだけど」
「あっ、ごめん。
そうだよね……」
やっぱり気のせい?
だって道は知らないって今言ったから。
でも気になって、村田に聞いてみる。
「ねぇ、なんで私の降りる駅知ってるの?」
「は?」
私の質問に対し、それだけ返した後村田は黙ってしまう。
何か考え込んでいるような、そんな動作に入った。
それから少しして…々
「知ってるってことはお前が言ったんじゃねぇの」
と答えた村田。
どこか不安の残る回答で。
村田自身も不思議そうな顔をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「そう、だよね……」
きっと、覚えてないだけで私が言ったんだよね?
今はそう、無理矢理理解することにした。
そして村田と並んで歩く。
その途中に自然に手を握られた。
一瞬反応したけど、離そうと思わなかった私はそのままにしていた。
つながれた手が温かくて、またドキドキと鼓動が速くなる。
この短期間でどうしてこうも心情の変化があったのか、自分でも知りたいぐらいだ。
手はつながれたまま、しばらく歩いていると家が見えてきた。
なんだか複雑な気持ちになったけど、その思いをかき消して村田を見る。
「村田、送ってくれてありがとう」
お礼を言ったのにもかかわらず、村田は呆然としたように何故か私の家をじっと見つめていた。
「村田……?」
私が名前を呼ぶと、こっちを見た。
その時の表情は穏やかで、切なくも見えるから不思議だ。
「なんかさ」
私を見つめた村田は口を開いた。
でも……
「……いや、やっぱなんでもねぇ」
と言うのをやめ、つながれた手が離されてしまう。
「じゃあな、また明日」
聞き返そうにも、村田が優しく笑ってそう言うから結局聞けなかった。
「うん、また明日」
村田が背を向けてしまう。
歩き出してしまったその後ろ姿を見つめながら、心に残る違和感とドキドキした感情が混じり合った自分がいることに私は戸惑っていた。
『海、行こう!』
その日、突然晴樹が私を海に誘ってきた。
その時はもう自分の気持ちに気付いていて、誘われた時はとても嬉しかった。
その海は何回か家族や晴樹の家族とも行ったことあるし、最近では中学で同じクラスになった友達と行ったのが最後だった。
電車で三十分ほどのところにあり、家の近くにあったプールなんかより何十倍も大きくて、綺麗で。
あまり知られていないため、地元やその周辺の人しか利用しておらず、いつも平穏な空気がその海には流れていた。
しかし晴樹と行った時は、通りすがりの人しかいなくて。
理由は簡単だ。
海のシーズンがとっくの昔に終っていたから。
だから何故、海に誘われたのか。
少し疑問に思ったけど、嬉しくてそれどころじゃなかったのが正直なところだ。
少し肌寒くなってきた秋頃。
学校が終わって晴樹と訪れた海。
空を見上げればそろそろ日が沈みそうで、だけど海が太陽の光に反射して綺麗だった。
『綺麗、だね…』
『うん。でも、あと三十分くらいしたらもっと綺麗なものが見れるんだよ』
満足気に笑う晴樹。
ああ、好きだなって。
それだけで胸が高鳴った。
『ほんと?じゃあ三十分待とう』
あとこうして三十分、晴樹と座って海を見つめながらのんびりできるのが嬉しかった。
まだ私たちは中学生で。
そんなに遅くまでいられないから、いつも早く高校生か大学生になりたいって思っていた。
そんな中、外でこういうのんびりとした時間は貴重だった。
幸せで、胸がドキドキ高鳴ってうるさくて。
幼なじみから好きな人へ変わっただけで、こんなにも感情の変化があるんだって思った。
『……里穂』
まだ声変わりをしていないる声で、私の名前を呼ぶ晴樹。
でも言い方が静かで、やけに耳に残る。
『どうしたの?』
ちらっと晴樹を見れば、いつになく真剣な表情をしていた。
重大た話だろうと感づき、途端に不安になって泣きそうになる。
『里穂は、俺と幼なじみっていうの、どう思ってる?』
嬉しいよ。
だって誰よりも近くにいられるから。
なんて言えなかったのは、拒絶されると思ったから。
幼なじみやめようって、言われると思ったから。
だから何も言えなくて、口を閉ざしてしまう私。
そんな私を見て、悲しそうにする晴樹。
違うの。
そんな顔をしてほしいわけじゃなかったの。
慌てて口を開こうにも、それさえもできなくて。
悲しくなって、目に涙が浮かんでしまう。
『ごめん、泣かせるつもりじゃ…』
『ち、違うよ…!私が悪くて、晴樹は無関係だから……!』
急いで涙を拭う。
さっきまで楽しかったはずなのに、晴樹の言葉一つでこんなにも感情を動かされてしまう。
『無関係って……俺には言えないこと?』
優しいけど、どこか真剣な声で晴樹は私に問う。
素直に頷いた私。
だって言えるわけないでしょ?
好きだから、だなんて。
『それって、単なる幼なじみだから?』
どうしてだろう。
晴樹がどこか素っ気ない。
怒らせてしまったの?
『は、晴樹……』
『もう無理。俺、もう里穂と幼なじみって関係嫌だ』
まさかそんなにはっきり拒絶されると思わなくて、目から大粒の涙がこぼれてしまう。
失恋、だなんて。
笑いたいのに笑えない。
乾いた笑いさえでない。
どうしよう、なんて返そう。
ごめんね?それとも…こんな私の幼なじみでいてくれてありがとう?
どっちも言うべきなんだろうけどどっちも言う気になんてなれない。
だって言ってしまえば全てが終わってしまうような気がするから……
『里穂、泣かないで。
絶対勘違いしてるよね?』
ただ黙ってなく私の頭の上に、晴樹の手が置かれた。
何回かぽんぽんされる。
『どういう、こと……?』
『わからない?』
『うん……』
おかしいな。
さっきまで泣いていて悲しかったのに。
また、ドキドキしてきた。
きっと、晴樹が優しい表情をしていて私を見ていたから。
『もー、本当はわかってるよね?
言わせたいの?』
うん、言わせたい。
とういうか、言ってくれないとわからない。
じっと次の言葉を待っていると…0
『俺、里穂が好きだよ。
一人の女の子として』
と、はっきりとした口調晴樹は確かに好きだと言った。
その後、少し恥ずかしそうにする晴樹。
可愛い部分もあるんだなって。
自然と自分の頬が緩むのがわかった。
『こら、にやけてないで返事聞かせてよ』
返事って、そんなのもう決まっている。