濡れた頬を拭うこともせずに、彼女は首を横に振る。


「っ……んで……なんで、そんなこと言っちゃうの……?」


合間に小さな嗚咽さえ漏らしながら、泣き止むことを知らない子供のように泣き続ける。

もう泣く事でしか自分の心の制御がつかないようにも見えた。


「……嫌いだって、一言言えばよかったのに。勢い任せに怒ってくれれば、そうすれば私だって諦めがついたのに」

「……」


彼女の望みの片鱗はやっぱり自分勝手で、彼は少し俯き、言葉を選ぶように逡巡した後に、ゆっくりと、そしてはっきりと言った。


「――……さっきは勢いで言いかけたけど、それでもニーナが嫌いだって思った事はなかったよ」

「っ、そんなの……千花ちゃんの前で言っていい言葉じゃないよ……!」


仁菜ちゃんは茶化すように笑ってみせようとするけれどやはりぎごちない。

けれど、何処か安堵が見え隠れしたのは私の願望だったのだろうか。


「――それがナナくんなんだね。……ううん、ナナくんだったんだよね」


彼女は彼女なりの結論を見つけたように、一つ、彼から線を引いた。