「……?」


恐る恐る目を開けば仁菜ちゃんの右手首を淵くんが握っていた。

私に手を上げようとしていたのを庇ってくれたようだった。僅かに右耳に当たった衝撃はとっさの事でその手の勢いを殺せなかった結果だったらしい。

まさか手をあげられるだなんて思っていなくて唖然とする。

こういう平和な考えを持っているのだって腹立たしい要因なのだろう。彼女はまたキッと私を睨んだ。

そこに入り込むのは低く冷たい声。


「……いい加減にしろって」


今まで聞いた事ないそれは、本気で呆れて怒っているのだろう。

月乃ちゃんに対して心配して声を荒げた時とはまた別物。


「そうやって腹が立ったら我慢が効かないとこ全然変わってない」

「……人がそんなに変われるわけないよ。それは私と付き合って散々分かってるでしょ?」


その問いに肯定だというように彼は手を離して、大きく溜息を吐いた。


「水無川が何で俺に固執するのか分かんないけど、別れる事に頷いたんだから納得して。今更関わってこないで」

「……」


あくまでも冷静であろうと努めているのか、冷たくあしらいながらも、声を荒げたりはしない。

しかし、それは彼女にとってきっと不服な事で、現に表情は曇る。