彼女は私の言葉に大きく目を見開いて唇を震わせた。
怒りを見せているようにも見えて、何故だか今にも泣き出しそうにすら見えた。
「わが、我儘って何!?自分がナナくんの一番って言いたいの?!自分が一番分かってるって!?」
何度か口をパクパクと動かしてようやく出された音はひどく悲痛にも聴こえる。
立場が立場だけにそう取られたって仕方ない。でも、彼女は必死で話題を自分の事ではなくて私にすり替えようとしている風にもとれるのだ。
「そんな事言ってないよ」
「言ってるよ!最初に会った時に何も言えずに誤魔化したくせに!そうやってナナくんを先に傷付けたのは千花ちゃんのくせに!」
彼女だって淵くんが何で傷つくのかよく分かっているはずなのに。
それでもこうやって接触しているのは自分の消化不良を吐き出したいが為だったとしたら。
「……仁菜ちゃんは淵くんと何が何でもやり直したいわけじゃないんだよね」
「!!」
「仁菜ちゃんは淵くんに……」
ビクッと肩が上がり、明らかに顔色が変わる。
私から何が発せられるか察したのだろう。
「やだ……やだ!やだやだやだ!やめて!」
私に罵声を浴びせようとしていたのも辞めて、しきりに嫌だと、言わないでと首を振る。
「……」
きっとこれを言えば、仁菜ちゃんはもう何かをしようとする気にもならないだろう。そう思うのに躊躇してしまったのは、私の中にまだ甘さが残っていたからだろう。
閉ざしてしまったのを好機と言わんばかりに彼女は目付きを鋭く尖らせた。
「千花ちゃんにそれを気づいて欲しかったわけじゃない!!私は……わたしはっ!!」
「!!」
ハッとした時には彼女の手は上に上がっていた。私は反射的に目を瞑った。
次いで、パンッと乾いた音に右耳に当たった僅かな衝撃。痛いというまでの感覚は無かった。