少なからず混乱する頭。遮られた聴覚は衝撃による一瞬のもので、塞がれていても尚、篭った音ながらに言葉が聞こえてくる。

無意識にその言葉に耳を傾けようとすれば、遮る声。


「瀬戸さん、水無川の話を聞く必要ないよ」

「……」


仁菜ちゃんは一歩後ろに下がって、顔をしかめた。

彼の言葉に対してではないだろう。きっとこう言いたかったのだ。「ほら、守ってくれる人がいる」と。

現に彼女は続けた。


「心配しなくても、私の話を聞いてナナくんの手を離せる訳ないよ。千花ちゃんは」


離せる訳がない。そこには嫌味や皮肉が含まれていた。

それこそ、自分と同じと言ったのだ。


「……」


ゆっくりと彼の手に手を合わせて私は彼から逃れる。


「瀬戸さん……?」


何処か不安そうに私の名を呼ぶ彼を振り返る。会ってないのなんて数週間だけなのに、妙に懐かしさすら感じてしまう。

走って来たのか少しばかり息が上がった様子の彼に微笑んで見せた。


「仁菜ちゃんの言う通りだよ。私は簡単に手を離せない。離したくない。だって、好きってそう言う事でしょう?」


離し難くて、もどかしくて。

私の後ろでは勝ち誇ったように声が上がる。


「ほらね!いくら口で綺麗事を言ったって結局他人事なんだよ!だから私に簡単にそう言うんだよ」


だから何だと言うのだ。


「そうだよ?だって、私無責任だもの」


そうして彼女の方を向いて今一度笑って見せた。