「……良い方って何?私にとって良いことだったのは、他でもないナナくんと一緒にいる事だけだったのに。それをどうして良い方に考えれるっていうの?」


それはもっともな意見だろう。彼女はそんな結末を望んだわけでは無い筈だ。望まなかった結末を迎えて良い方に考える方が難しいだろう。

だけど、仁菜ちゃん自身がはっきりと言って自覚していた事がある筈だ。


「だって、正しい感情じゃなかったのなら、それだってお互いの為になる事だったんじゃないの?」

「綺麗事を……!!どうせ千花ちゃんだって自分がそうなったって、ナナくんがそうなってる今も!別れる勇気なんてないくせに!」


だからそうやって彼を探し回っているんでしょう?と言いたげに、また私と間合いを詰めた。


「……」

「……」


何も答えずに、ただ目と目を合わせて彼女を探ろうとする。

しかし、彼女の方が痺れを切らすのが早かった。


「ほら、結局答えれない!千花ちゃんは聞き分けがいいんじゃない。ナナくんの事を分かっているわけじゃない。ただ逃げてるだけなんだよ。それはただの偽――」

「せ、とさん!!」

「っ?!」

「――!――!」


並べ立てられる否定に、続いているであろう罵声。

しかしそれは、聞き覚えのある声と共に後ろから抱き寄せられるように遮られた。

驚いた表情ながらに、彼女は言葉を続けていたけれど、私の耳に入ることはなかった。

彼が私の耳を手で塞いでいるのだと気付いたのはその少し後だった。