淵くんにとっての好きではない。なら、仁菜ちゃんが求める好きとは何なのか。彼女は一体何を求めたのか。
だって
「……なら、どうして淵くんの事を否定したの?同じだったらそれで良かったじゃない」
「!!」
驚いたように目を見開いて数回大きく口をパクパクさせたかと思えば、諦めたかのように目を伏せる。
私が何でそこまで知っているのかと憤りを感じたのかもしれない。
仁菜ちゃんはぎゅうっと握り拳を作った。
「同じで良いわけない……!こんな自分でも疲れる感情向けられて、正しいはずない」
「!!」
それは、全てのきっかけを覆す発言。
彼女が彼女自身を否定したのなら、彼の信じたものは一体何だったというのだろうか。
「私はナナくんがずっとずっと好きだった……っ、告白されても誰の告白も受けてないことも知ってた。だから付き合える事になったときは夢かと思った。死んでもいいくらい嬉しかった」
嘘ではないと絞り出すような声で想いを吐き出す。
「一緒にいるだけでよかった。それだけで幸せだった。笑ってくれればそれでよかった。ナナくんが好きだって言ってくれるだけで満たされた。ナナくんのわたしに対する好きって言う気持ちが好きだった」
「それなら否定する必要もなかったんじゃ……」
「そうだよ。でもね、ナナくんの気持ちを疑ったの私」
彼女はその時の事を思い返して震えるように、顔を手で覆った。
「周りが口を揃えて言うの『誰にでも優しいよね』『自分だって特別なんじゃないかって勘違いする』『あの子が付き合えるなら私だって』って」
そうして数えたのは、少なからずはいる蔑む言葉。
「もちろん、それだけが全部じゃない。でも悪い声ほど耳に入る音は大きかった」
だから次第に疑ったと彼女は言った。
その話が本当なら同情する余地だってあるだろう。それでも
「……そんなの、淵くんを傷付けていい理由にはならないよ」
「!!」
瞬間、仁菜ちゃんは弾かれたように顔を上げて目を見開いた。