彼が居ないからと語らなかった事を語ってしまったのは、淵くんの奥に仁菜ちゃんの影が見えて居たように、彼女の奥にも彼の影が見えてしまったからだろう。

閉ざしてしまいたかったのに口にしてしまったのは、何処か敵わないと観念したからなのかもしれない。


「……は?」


私が口にした言葉が意外だったのか、間の抜けた声を上げて掴む手が緩まる。

しかし、私は振り解きもせずに手首を持たれたままに立ち竦む。


「仁菜ちゃんも淵くんも、二人とも似てる……ずっと一緒にいたからきっと、似た者同士になったんだね」

「何、言ってるの?」

「淵くん、仁菜ちゃんの気持ち一生懸命解ろうとしたんだよ。……悔しいけどそんな仁菜ちゃんの好きが淵くんの中に残ってるもの」

「え……?」


その瞬間、するりと手が落ちた。

目に映る彼女の爪先が遠ざかっていく。

追うように顔を上げれば、信じられないと言いたげな表情で、何処か泣きそうな表情で何度も浅い呼吸が繰り返された。


「――……はっ……あは、あははっ……!!そんなの……そんなのって……っ!!」


次いで乾いた笑いを上げて彼女は走り出した。



「っ!待って!仁菜ちゃん……!!」


そして遅れるように私も走り出していた。