ここにいない彼の話をしても話の進展などしない。ならばともう一度顔を上げれば、彼女は手で顔を仰ぎながらフラフラと建物の影に移動する。


「それにしても今日は暑いねぇ。こんな暑い中で話するのも体に毒だし……あ、そうだ。この辺に小さい水族館あったよね。そこに移動しよ!」


そこなら体感的にも視覚的にも涼しいと提案する。

何処か目的があって移動していたのだと思っていたがどうやら違ったらしい。

向いながらでも話は出来るし、暑い中歩き続けるのも疲れてしまうと、断る理由もなく私はコクリと頷いた。

そうして歩き始めて、私は問いかける。


「仁菜ちゃんは、淵くんとまた一緒に居たいの?」

「ニーナでいいのに……まぁいいけど」


と、ついアダ名で呼ばなかった事に不服な顔を見せられるも、彼女は問いに答えた。


「仮にその質問にそうだよって言ったらナナくんのこと返してくれるの?」

「……淵くんは物じゃないから」

「でしょー?そう言う事だよ」

「そうじゃなくて、仁菜ちゃんの気持ちを……」

「多分、幸せな恋してる千花ちゃんには言ったって理解できないよ」


はぐらかされそうになるのを引き止めるのに、突き放すように言葉を浴びせる。

この子の狙いは一体なんだと言うのだろうか。

理解できないと言うことに引き下がってもきっと答えてはくれないだろう。現に何も聞くなと言いたげに、歩くスピードが少しだけ早められた。