寝てしまって申し訳ないだとか、恥ずかしいことを言っているとか、そんな事を考えるよりも前に多幸福感が胸を占めて、それらを締め出してしまう。

寝惚けているような私を不思議そうに見ながら彼はまた問う。


「そんな事が幸せなの?」

「そんな事だから幸せなんだよ」

「……そっか」


僅かに微笑みながら、彼は私に手を伸ばす。

手を伸ばして横になって乱れているであろう髪に触れ、直すかのように髪を撫でつける。

次いでその指先は右耳朶に触れてピアスをなぞる。

いつもなら彼に触れられると彼に近づくと煩く鳴り出す心臓も、今日ばかりは穏やかだ。

また目を閉じてその空気を感じ取る。


「……ねぇ、瀬戸さん」


彼はいつもより声を落として私に声を掛けた。

喉がふさがっているかのように潜めた声でも、届くのは彼が近くにいるからだろう。


「どうしよう……今すごく瀬戸さんの事抱きしめたい……」


止まった手は、これ以上私に触れる事を躊躇しているようにすら感じた。

ゆるりと目を開けて視線を上に向ければ、困惑を浮かべていて、私と目が合うと、更に眉を下げて笑った。


「……ごめん。瀬戸さんは、」

「いいよ」


パッと手を引くと同時に無かったことにしようとする彼を私は引き止めた。