彼についていくように、リビングに入れば部屋の中央に置かれたテーブルの向こう、窓際に飼い猫のシャルロットが座っているのが見えた。
座った下にはビニールのようなものが敷かれていて傍らには太めのブラシが置かれている。
「シャルロットのブラッシング?」
「そう。毛の長い猫だから、頻繁にやってあげないとならなくて」
言いながらケーキを冷蔵庫に仕舞って、途中だったブラッシングを再開させるようにシャルロットを胡座をかいた足の上に乗せる。
嫌がる素振りを見せることなく、されるがまま毛をとかされている。
私は何となく傍らでその様子を見ていた。
窓から差し込む日差しが暖かいのと、毛を整えてもらうのは気持ちいいのか、シャルロットはゆっくりとした瞬きを短いスパンで何度も繰り返す。
ちらりと淵くんの顔を見てみれば俯き加減にしながらも口元を緩めている。
「気持ち良さそうだね、シャルロット」
「こう言う時だけは何でか大人しいんだよねぇ」
細くて長い指が白い毛を撫でる。
妙に緩慢なその動きは、この部屋の時間すらゆっくりに見せた。
カチカチと規則正しく秒針を刻む音が、確かにいつもと同じように時が進んでいる事を示す。
「……」
体感と正しい時の刻みが噛み合わないのが何故だか心地よくすら感じてしまう。
そうして、此方を向いているシャルロットの目を見ているうちに、私も同じように瞬きを繰り返すようになってきた。
「ん、瀬戸さん眠いなら寝てていいよ?ここ数日疲れたでしょ」
のんびりとした口調が体感と同調するように潜り込んできて、安心感をもたらす。
眠ってはダメだと葛藤する間もなく、言われるまま従うように私はゆっくりと目を閉じたのだった。