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「おかえり、遅かったね?」
扉を開けて出迎えてくれた彼は、何処か心配そうに見えた。
駅に送ったらまた戻ってくると約束していただけに、少々時間を持たせすぎていたらしい。
「ただいま。月乃ちゃんとケーキ食べてて」
「……そっか。すっかり仲良しだねぇ」
少しだけ何かを言いたげな表情を見せながら、それでも嬉しそうに口元を緩める。
私が玄関に足を踏みいれたのを見れば自然な動作で扉を閉めた。ガチャっと微かに扉の鍵がかかる音が響く。
靴を脱ごうと身を屈めようとして手に持っていたものを思いだした。
「あっ、そうだ。これ、淵くんにも買ってきたの」
「?ケーキ?ありがと」
箱の形から察したようで、私からそれを受け取る。
「そこのケーキ美味しくてね、それで、シャルロットって名前のケーキがあったから」
「ああ……なるほど」
「私知らなかったんだけど、シャルロットって女の人の帽子に見立てたお菓子なんだって。可愛いよね」
「うん。そうだね、可愛い」
何がおかしいのかクスクスと笑って、部屋の奥へと足を進めていく。
「?私変な事言ってる?」
「んーん。何か瀬戸さん嬉しそうだなって思っただけ」
「そ、そうかな」
自分では普段通りなのだが、彼にはそう見えているのだろう。
ペタペタと自分の頬を触ってみてもわかりはしなかった。