「両親を少し鬱陶しく思いながら、兄妹を少しばかり毛嫌いして」


吐き捨てながら、また一歩遠ざかる。


「でも、私はそんな気持ち分からないんです。仕事が大好きで殆ど家に帰らない両親でも好きで、両親の代わりのようにずっと一緒に居てくれていた兄だって好きで……」


不思議とその背は小さく見えて、背負ったリュックも重そうに見える。


「それでも分かり易く間違いなく兄妹だと示す為に“兄”と呼ぶようにしました。生まれてこのかた名前でしか呼んだ事なかったのですが」


遠ざかる毎に、私も近づこうとするのだが距離は縮まらない。


「そうして不自然に兄に冷たくし、帳尻を合わせるため、あたかも私はそんな人間だと主張するように周りにも愛想すら振りまくのを止めました」

「月乃ちゃん……」


呼びとめようと声を掛けても、彼女は聞こえない振りをしているのか止まる事はない。


「それでも兄はそのまま変わる事なく私に接してくれていました。私も本心ではそれを優越に思っていたんです」


自分も同じだと言うように、それでいて淡々としていて、酷く不安定に見えた。