誰だって不安な気持ちは持つものだろう。
「そんなどうしようもない不安要素を取り除くにはどうすればいいのか。兄は兄なりに彼女を大事に想っていたようですからね。平行線を辿るばかりのどうしようもできない嫉妬心を分かり易く消化させる為に、持っていた携帯を目の前で壊してしまいました」
「!」
「それはみっともなく校内で喧嘩をしている最中の出来事だったので私も多くの人も良く知っています」
ふっと、その表情には侮蔑と恐れが浮かび上がる。
「その時の兄はいつものように温厚で、それでいて冷静で……怖かった。そして、その時の周りの反応は……っ」
少しの震えを堪える様にギュッと手を握った。
「理想の……理想の彼氏だ。なんて持て囃したんです」
「え……そんな事で?」
「……貴女はやはりそう言いますよね」
月乃ちゃん自身が不安に思っていたのか、私の反応を受けて明らかに安堵の表情を見せる。
強く握っていた手は少しだけ緩んだ。
「でも、誰と連絡を取っているか不安はなくなり、周りには分かり易く特別感はでるでしょう?それが恋に恋するような女の子達には理想の姿なんです」
「確かにそうかもしれないけど、それじゃあ淵くんが窮屈だよ」
そうして、彼女は手を解いて目を細めて笑った。