一つ、呼吸を吐き出してまた一つ、言葉を零した。


「兄はあの性格ですから誰にでも優しかったんです。けれどそんな優しさは彼女と言う存在としては面白くなかったんだと思います」

「面白くないだなんて」


そうは言っても、それが彼の性格なのだから切り離す事などできはしないだろう。

そう思うのに、月乃ちゃんは嘲るように笑った。


「面白くないんですよ。自己顕示欲の強い女にとって、兄の優しさ全てが。自分だけに優しくしてくれる事に優越感を覚えるんです。――……一つ、こんな話をしましょう」


吐き捨てるように零した言葉を、その事実を踏みつけたいかのごとく声を強める。


「付き合っていた当初。時折彼女は兄と揉めていました。周りが言うに、多くは彼女の嫉妬心から来るものだったようですが」


とそんな前置きをして、彼と彼女の昔の出来事を話す。


「兄は人当たりも良く、……まぁ、見目も良い事は高校生にとっては大きなアドバンテージなのでそれも相まって、多くの友達がいました」


今だってよく、声を掛けられているので如何にそれが大きな要因なのかが分かる。


「皆に人気の“淵七斗”と言う彼氏は彼女にとって優越感に浸れる要因の一つだったことでしょう。しかし、同時に不安要素だったようで、それについてよく不満を私に零していました。もちろん兄にも」

「……」


その気持ちは少しだけ分かる。私だって嫉妬しなかったわけではなかったのだから。