けれど彼女自身には思ってもみなかった発言なのか、目を見開いて後ずさる。

揺らぐ瞳は明らかな動揺を見せていた。


「……違います」


それでも平静を装うようにふるふると首を振るも、違うと言いたげに更に首を強く振った。


「いいえ、違う事はないですね。私はずっと、最初から貴女とあの女を比べてました」


眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべているのに、“あの女”と称する言葉には確かな暗い感情が含まれている事が容易に分かる。


「見目、言葉、行動、仕草、癖。それらを比べては同じだ。違うと」

「……それは仕方のない事だよ」


誰だってきっと比べたがる。それこそいつか彼と話した似ている人を探してしまうというのも同じような現象だろう。

誰かに比べられる。と言うのは少しだけ心に靄が掛かってしまうけれど受け入れてしまうしかない。


「仕方ない。ですか……けれど私が嫌いだと言った貴女の性格。それはあの女も同じような性格をしていたんです」

「そう……」

「あの女は兄と付き合い始めた当初、友達になろうって言ってくれたんです。私はそれが嬉しかった。でもそれは偽善で。兄と仲の良い私の事をずっと疎ましく思っていたんです」


悔しさを浮かべるが如くグッと唇を噛む。


「私と兄は間違いなく兄妹です。仲の良かった兄妹です。それ以上でもそれ以下でもない家族なんです。なのに仁菜ちゃんは……っ!」


と勢いに任せて名前を出したした瞬間、ハッとしたように自らの口を抑えてまた一歩後ずさる。

しまった。と言いたげな表情で、まるで今にも泣き出しそうにすら見えた。

“仁菜”と呼ぶその声は少しだけ和らいで、先の呼称に含まれていた感情とは違う、憎み切れない気持ちが表れていた。