「まだその癖直せてないんだ?」

「……最近はちゃんと持ってたもん。油断しただけ」


言い訳するように唇を尖らせて、見せつける様に今度はお茶碗を正しく持ち変える。

どうやらマナー的な話をしているらしい。

しかしながら、人の指摘をしている彼を物珍しく思って、私は呑気に眺めてしまう。

それどころか、あまり兄妹と言う感じがしていなかっただけに、場違いにそんな光景を微笑ましくさえ思ってしまう。


「ふふっ。淵くんもちゃんとお兄ちゃんなんだね」

「どういう意味?」

「前に実家だと妹に怒られるって言ってたから」

「そんな事言ったの?」


月乃ちゃんはジロッと視線を動かして責めるように彼を見遣る。


「そもそも、この持ち方してたの最初にしてたの兄じゃん。それに、私が怒るのは帰ってきたら制服適当に脱ぎ散らかしてたからで……」

「あーあー!わかったわかった。俺が悪かった。さ、ご飯食べよ」


私の不用意な一言で別の方向に話がシフトしようとしたところで、彼は無理矢理話を遮る。

どうやら彼にとっても、耳が痛い話のようだ。

それでも、何だかんだ身の回りはきちんとしていそうな彼だけにそんな一面もあるのだと知れて、妙な満足感を得る。

私は完璧よりも、何処か不完全さがあれば親しみを覚えてしまうらしい。


「淵くんは月乃ちゃんには勝てないね?」

「……そーだね」


確信的な行動の仕返しではないけれど、茶化すように言えば彼もまた月乃ちゃんと同じような表情で唇を尖らした。