彼女はリュックの肩ひもを持って背負い直して一歩下がる。
「では、私は帰りますね。瀬戸さんに会えてよかったです」
その後に私に軽く会釈をして、彼に振り返り挨拶を述べる。
「じゃあ、おやすみ」
「いやいや、月乃が泊めてって言ったんじゃん」
淡々とした口調で、颯爽と来た道を帰ろうとする彼女のリュックを掴んで彼女を引き止めた。
何度か空回りするように足踏みをした彼女は首だけを此方に向ける。
「いい、いい。帰って出直す」
否定を述べてまた歩き出そうとするも、リュックを掴まれたままなので歩いても進みはしない。
私に気を使っているのだろうか。しかし、兄妹なのだから気にする事もないと思うのだが、一人っ子の私には与り知らぬところなのかもしれない。
「意味わかんないんだけど」
「分かんなくていい。だって……」
と、不意に一瞬私の方を見遣る。
私に気遣っているのか。それとも、お兄ちゃんの彼女と言う存在にいい印象を抱けなかったのか。