“ナナ”と呼ぶのは淵七斗から来るあだ名だろうか。それならば彼とはよほど親しいのだろう。
じーっと、彼女は私を訝しげな眼で見た。
「ほら、この間話した彼女」
「かの、じょ」
その強い視線はその言葉で確かに揺らいだ。
ポツリと復唱した声を彼女自身が飲み込むと同時に、何故だか目に見えてホッとしたのが分かった。
彼女は私に歩み寄り、次いで、目を細めて笑った。
「初めまして。妹の淵月乃です」
ああ、その笑った顔は確かに彼に良く似ている。
そうして、今の笑顔など無かったかのように消えせる表情。
一瞬反応が遅れて、ハッとする。
「初めまして。瀬戸千花です」
「せんか……」
私が自己紹介すれば、名前の響きが珍しいのかポツリとまた復唱する。
こういった反応は時々受け、私自身も同じ名前の子に出会った事はないので可笑しくもないと思う。
次いで彼女は慌てて声を上げる。
「あっ、ごめんなさい。瀬戸さん、ですね。よろしくお願いします」
「えっと、千花で構わないですよ。あと敬語もなくても」
「いえ、敬語も使えない馬鹿な妹だと兄も馬鹿に思われてしまうので。瀬戸さんは普通に、兄と喋るようにしていてください。……まさかそんな他人行儀に喋らないですよね?」
「う、うん……」
その芯の強いハッキリとした声で言葉を畳み掛けられると妙な迫力があり、情けない事に頷くしかできない。
近くで見る彼女は彼と同じように整った顔立ちをしているだけに、変にドギマギしてしまう。けれど、何処か幼さを残している彼女は可愛らしくもある。