初めて聞く話にポカンと口を開ける。私が知る限りではちゃんとした返答をしている所は聞いたことがない。

直接告白された時などはどうしているのかは知らないけれど。

受け入れもせず拒否もせず、言ってしまえば生活のルーティーンかのように流している。


「彼女いるからつって。明らかに好意を持ってる子ってなんとなーく分かるじゃん?そう言う子にはハッキリとしてるらしいって」

「聞いた。とか、らしい。って事は淵くんに直接聞いてないんだね」

「や~~、その手の話題を俺とするのは嫌いらしくて“うるさい”って一蹴されんだよな~~、だから周りの噂。淵って色々目立つ奴だから」


火の無い所に煙は立たない。そんな噂が立つと言う事は、何か悪意でもない限りそういう事実があったのだろう。


「あ、でも彼女出来たって話はちゃんとしてくれた。俺ってもしかして親友!?……って冗談は置いておいて。何にせよ、ちゃんと断るようになったって事は千花ちゃんの事大事にしてんだなーって俺的見解なんだけど」


どう?と私に迫ってくる。

私に聞かれても、そう。とも違う。とも言えない。同時にそれは喜ぶべきなのかもよく分からない。

言うなれば相手にしていなかった事を相手にしているのだ。スタンスを崩しているのだ。それは良い事なのだろうか。


「でも、あれ?何か引っかかるような……」

「ごっめーん!私バイト入っちゃった!」


佐伯くんが考え込むかのように首を傾げた時に割って入る通る声。

どうやら先の電話はその関係だったらしい。


「私逆方向になっちゃうからここで解散するね!」

「この間の洋食屋さん?」

「今日はねー、居酒屋!じゃね!」


挨拶も簡単に、私と佐伯くんに手を振って駆け足で雑踏の中に入っていく。

それを二人して見送りながら、見えなくなった時に今度は佐伯くんが言う。


「??何か思い当たりそうだったんだけど、ま、いっか。んじゃ、俺も帰るわ」

「あ、うん。またね」


先の考え事は深く考える事でもないと言うように、軽い調子で手をあげて彼もまた雑踏に紛れて行った。

独り残った私は微妙な寂しさに苛まれていたのだった。