「……名取くんは、本当にわたしのこと、何とも思ってないの?」


「……!」



 今までどうにかわたしを引き離そうと、じたばたしていた名取くんの動きが止まる。


 わたしのこと、好きじゃないのに、こんなにドキドキしてくれてるの? わたしは、名取くんにしかドキドキしないのに。


 名取くんの気持ちは、本当によくわからない。


 仲良くなれたと思ったら避けられるし、なのに期待を持たせるようなこともしてくるし。


 なんなの? わたしをもてあそびたいだけなの? 名取くんは、そんな人じゃないよね。


 ずっと見てきたんだよ。ずっと。



「わ、わかった。ちゃんと話すから、だから……離れて、ほしい」


「……うん、じゃあ……」



 わたしは観念して、名取くんからゆっくり体を離した。露骨にほっとした表情になる名取くん。


 なんだかそれが気に入らなくて、そっと名取くんの手を取る。



「え……あの、朝霧さん?」


「逃げ防止用、だよ」



 顔を背けながら言うと、名取くんは一瞬ためらった後、ぎゅっと、握り返してくれた。


 ほら。そういうところ。本当に嫌なら、振り払えばいいのに。そういうことをするから、すっぱり諦められないって言ってるのに。


 だからわたしはまた……期待、してしまう。



「す、好かれて、嬉しかったのは事実です……」



 名取くんが恥ずかしがりながら話し出す。可愛い。写真撮りたい。



「まんざらでもなかったと?」


「いや……付き合う気とかは、全然……」


「……? 嬉しいのに、付き合いたくない? ワッツ?」


「そ、それはまぁ……こっちにも、いろいろあるというか……。その、朝霧さんを好きになるのは、困るっていうか……」


「えっ……まさか、二股!?」


「なんでそうなるの!?」



 ……とまぁ、冗談はここまでにしたいんだけど。


 だってどう考えても、名取くんがわたしのことを好きなんじゃないかっていう兆候は節々にあったんだ。


 ほら、球技大会のときとか。あのときには絶対、わたしのこと意識してたんだと思うんだよね。


 それじゃないと、困る。わたしは名取くんがああいうことをわざとできる人だとはどうしても思えないから。



「え、えっと……ふ、複雑なんだよ、こっちの心境も……!」


「いいよ、教えて?」



 名取くんの目をじっと見る。


 一瞬嫌がる表情を見せた名取くん。もう観念してほしい。そう願うと、願いは届いたのか、ヤケクソのようにぶちまけてくれた。



「うっ……だ、だから――!


 こ、好意は嬉しいけど……俺は朝霧さんのことを好きにはならなかったの!


 朝霧さんが俺のことを好きじゃなくなるのもなんか嫌だったり、裕也と話してるのを見てるともやもやしたりもしたけど、結局自分の気持ちはよくわからなかった。


 そしたら、なにもかも中途半端になったし……。


 このままの俺と付き合うのは、朝霧さんも、幸せになれないと思う……ってこと!」



 うーん、長い!



「なんだか複雑っていうか、めんどくさいねぇ」


「うん、だから、わざわざこんなめんどくさい男に付き合わなくたって……」


「でもそれって――名取くんはわたしのことが好きだから恋人になりましょう! でよくない?」


「……へ?」


「え、違う?」



 今のって、一種の告白にしか聞こえなかったんだけど。


 あれ? 違うの?