暴走族の天使〜紡ぐ言葉を聴きたくて〜

詩side

北星との抗争から早くも1週間が過ぎた

あの日、星竜と北星の両方に怪我人が

多数いて私は敵味方関係なく

怪我の処置に奔走していた

北星の皆さんはとんでもないと

慌ててたけど抗争は終わったんだから

そのままにしておきたくなくて

北斗と島田さんに直談判したの!

北斗は溜め息をついて

島田さんは苦笑いしてたけど

私のものすっごい勢いに根負けして

折れてくれました〜!

というか、怪我してる人が目の前にいるのに

ほっとける人なんているの?

私にはそんな事出来ないんだもん!

凛くんや幸くん、他の下っ端くん達と

星竜も北星も関係なく処置して回ったの

それからなんとか処置が終わって

北星の皆さんが

倉庫から帰る時、島田さんから

存続を許してくれた事と

怪我の処置をしてくれた事への

感謝をいつか返させて欲しいとの

申し出があった

何かあったら星竜に力を貸すという

ものらしいんだけど

困ってる人が居れば手を貸すし

怪我してる人が居れば処置するのは

当たり前のことなのに

すっごく律儀な暴走族さんだなぁって

尊敬しちゃった!

あくまで私達は敵同士だけど

危機的状況の時は動いてくれるんだって!

じゃあ仲間になればいいのにって思ったけど

それは少し難しいみたい…

暴走族って色んなルールがあるだなぁって

思った

そして、今日もいつもと同じように

下っ端のみんなと1階の溜まり場で

遊んでいた私に北斗から

呼び出しがかかりました

「詩、話があるから総長室に来い」

突然の呼び出しに首を傾げながら

私は総長室に向かった

ーコンコン

「入れ」

ドアを開けるとベットに腰掛けた

北斗が居て、なんだか真剣な表情…

なんだろうなぁ?

こんな表情を浮かべる北斗は

初めてかもしれない

こっちまで緊張しちゃうような

少しピリッとした雰囲気に

ちょびっとビビりながら近付くと

いつもの定位置、北斗の膝の上に

乗せられた私をジッと見つめる北斗は

息を呑むほど綺麗…

ゴクリと喉を鳴らす私に聞こえたのは

とっても甘い言葉だった

「詩、俺は初めてあの路地裏で
会った時から、お前が好きだ。
自分のことより周りが優先で
俺を暴走族の総長としてでなく
流川北斗として接してくれた
初めての女だった。
守りたいと思ったのも
傍にいて欲しいと思ったのも
詩が初めてだ。
お前を誰にも渡したくない。
ずっと傍にいてくんねぇか?
俺の…彼女として」

北斗の真っ直ぐな瞳と想いに

私の心臓はドキドキして

身体中の血液が沸騰しそうで

最早パニックです!!

でも…私がこんなにドキドキするのも

安心するのも北斗が初めてだから

これが恋愛感情の好きなのかが

分からないの

優しい眼差しも、大きくて温かい手も

腕の中に居る時の安心感も

抱き締められてドキドキするのも

北斗が私にとって特別な存在だから?

これが好きってことなの?

この気持ちが本当に恋愛感情の好きなのかが

分からないと返事出来ない

今すぐに答えを出さないとダメなのかな?

私はポケットからメモ帳とペンを出して

今の想いを綴って見せた

≪好きって言ってくれて嬉しい。
だけど、私の心にある北斗への想いが
恋愛での好きなのかが分からない。
今までにこういう気持ちになった事が
ないから…
だから、少しだけ返事待ってくれる?≫

メモ帳から目を離した北斗は

いつもと変わらない優しい眼差しで

「待ってる」

って言ってくれたから

私は笑顔で頷いた

次の日、恋愛感情の好きが何なのかを

ずっと考えてみたんだけど

さっぱり分からない…

どうやったら答えが出るの?

ウンウン唸る私を心配して

声を掛けてくれたのは、律だ

「詩、朝からずっと様子が変よ?
何かあったなら話聞くけど」

あ!適任者が目の前にいるじゃない!

外見も中身もパーフェクトで

知識も豊富な律が〜!!

ノートを取り出して質問してみる

≪恋愛感情での好きってどんなの?≫

「え?恋愛感情での好き?
…もしかしてだけど、詩
恋した事ないの?
というか…そんな質問するって事は
誰かに告白でもされたの?」

え?恋?

それってどんな感情のこというの?

っていうか、たったひとつの質問で

誰かに告白された事まで分かるなんて

律って何者!?

≪正直言うとね、恋とか愛とかって
私には分からないの。
愛された記憶がないし、それに…
今までは生きてくだけで精一杯だったから。
それに、喋れない事で周りの人達には
私避けられてたから、もちろんお友達も
居なかったかの≫

文字を追う律の顔がすごく悲しそう…

こんな顔させることになるなら

書かなきゃ良かったかもしれない

ど、どうしよう…

自然と膝の上で固く握り締めた手の爪が

肌に食い込む

その時、フワッと柔らかいものに包まれた

「過去にそういう経験をしたら
きっと私だって詩と同じように
思ったかもしれないわ。
だけど、それは過去の詩であって
今の詩は私も含めて沢山の人達に
愛されてる。
だから、そこは自信を持っていいと思うの。
恋とか好きが何なのか分からないなら
私からいくつか質問するから答えて?」

抱擁を解いた律は優しい眼差しで

私の頭を撫でてくれた

過去は過去、今は今か…

過去のことは決して消えないし

なかった事にはならないけど

今が満たされていれば

いつか本当に過去を過去として

受け止められるかもしれないね

簡単じゃないかもしれないけど

一歩ずつ前進してみようかな…

優しく見つめてくれる律に笑顔で頷いた

「じゃあ、過去は一旦今は置いておいて
質問するわね?」

首を縦に振って頷いた

「まず、その人が詩以外の女の子に
同じように触れたら嫌?」

北斗が私にしてくれる事を他の人に?

う〜ん…嫌かもしれない

コクッと頷いた

「じゃあ次の質問ね?
その人が詩だけに見せる仕草や態度を
他の女の子に取ってたら嫌?」

私だけに見せる仕草や態度…

膝の上に乗せてくれたり

大きくて温かい手で頭を撫でてくれたり

優しい眼差しで笑いかけてくれたり

それを他の人にも?

少し…

ううん、すごく嫌かもしれない…

コクッと頷いた

「じゃあ最後の質問ね?
その人と一緒に居てドキドキしたり
離れないで欲しいって思う?」

うん、すっごくドキドキする!

離れたくないって思う!

コクコクと頷いた

クスクス笑う律に私の頭の中は

ハテナが沢山浮かんでる

首を傾げてジッと見つめていると

律は優しいソプラノの声で言った

「それは間違いなく恋よ、詩。
人に恋をして好きになると
その人を独占したいっていう気持ちが
芽生えるの。
自分にだけ触れて欲しいとか
自分だけに優しくして欲しいとか
傍にいて欲しいとか…
離れたくないし、離して欲しくないとか。
人を好きになる基準なんてそれぞれだけど
良いところも悪いところも
全部ひっくるめて一緒に居たいって思うのが
恋で、好きって事だと思う」

独占したい…

全部ひっくるめて一緒に居たい…

それが恋…

じゃあ私は北斗の事が好きってこと?

恋愛感情として…

≪でもみんなの事も好きだよ?
それも恋愛感情としての好きなの?≫

私の疑問に律はゆっくり首を振る

「じゃあ、みんなとの好きと
その人との好きの違いを教えてあげるわ。
例えば…キスして欲しいとかしたいって
思うのは?
今、誰の顔が浮かんだ?
その人が詩にとっての好きな人よ」

キ、キキキキス〜!?

恥ずかしい〜!!!

恥ずかしくて俯く私の頭の中に

浮かんだのは…北斗だ

他のみんなで想像してみても

どこかしっくりこない気がする

抗争の前日に北斗からおでこに

キスされた時はドキドキして…

恥ずかしかったけど嫌じゃなかったと思う

ってことは、やっぱり私は

北斗が好きなんだ

分かってしまったら

途端に心臓がドキドキバクバクして

胸がぎゅっとする

茹でだこ状態であろう顔を上げて

律を見つめると律は優しく笑った

「答えが出たみたいね、詩」

その言葉に私は笑顔で頷いた










詩side

放課後、いつもと同じように1階で過ごす私は少〜しばかり浮ついてます!

だって…

律のお陰で、私は北斗の事が好きって

恋してるんだって分かったから

放課後のこの時間は下っ端のみんなと

過ごす大切で大好きな時間なのに

どこか上の空で心ここに在らずなの

だから目の前では凛くんや幸くん、宏くんが顔を見合わせて首を捻ってるなんて、私は全く気付いてなくて…

それにしてもどうしよう〜!?

昨日恋が何なのか分からないと

返事を保留にして貰ったのに

1日経たずに返事していいものなの?

でも北斗は待ってるって言ってくれたし…

ちゃんと北斗と同じ気持ちだってこと

早く伝えたい

ウジウジするのは私らしくないよね!

そうと決まれば即行動しなきゃと

北斗の居るであろう幹部室へと猛ダッシュ!

ーバァン!!

扉を開けた先には

驚きの表情を浮かべ目を丸くする、みんなが私を見つめていた

いち早くその驚きから覚めた奏に声を掛けられた私はクスクス笑われちゃって、なんとも恥ずかしい〜!

「詩ちゃん、いきなりどうしたの?
何かあった?」

私の脳内がお花畑になってる事は一旦置いておいて、北斗の席を指差して首を傾げて
どこにいるかを尋ねた

伝わってる?

筆談の方が良かったかな?なんて思ってたけど、奏には分かったみたい

「北斗なら総長室に居るよ」

その言葉に笑顔で頷いて、私は2階の1番奥にある総長室へと小走りで向かった

私が出て行った後の幹部室で、みんなが首を捻っていた事は知る由もなかった

総長室の前で数回、深呼吸をして今更緊張しているんだって分かった

一刻も早く伝えたいと思ってたのに

今は胸がぎゅっとなって、少し息苦しいくらい

だけどそれは苦しいとかじゃない、不思議な感覚なんだ

フゥ〜と最後の深呼吸を終えて、片手を胸に当てながらノックしようとした瞬間…

部屋の向こう側から聞こえてきた言葉に

私の手は扉からゆっくりと手を遠ざけていた

早くこの場から動きたいのに、足が震えて

指先は凍えるほど冷たくて

心臓は昨日の北斗からの告白の時より

北斗と同じ気持ちだと分かった時より

今この瞬間が1番ドクドクしてる気がするんだ

だって…

私以外の誰かに向けて優しく穏やかな声で、昨日私に言ってくれた言葉を紡いでるんだから…

「…好きだって、穂花。
守ってやるって言ったろ?
だから、心配すんな」

穂花、さん…?

北斗…その人が好きなの?

じゃあ、私に昨日言ってくれた言葉は

嘘だった?

初めて好きになって守ってやりたいって言ってくれたのも、嘘?

ねぇ、待ってるって言ってくれたでしょ?

私、昨日告白してくれて

すっごく嬉しかったの

今まで、そんな気持ちを持つ余裕もなく生きてきたから沢山悩んだの…

だけど律が教えてくれたんだ

人を好きになることや恋する気持ちが

どんなものかを…

初めてなんだ、こんな気持ちを持てたこと

だけど本当に初めてだから分からないの…

こういう時どうすればいいのが正解なのか

私には分からないよ、北斗…

私に伝えてくれた気持ちはホンモノ?

それともその人…穂花さんに伝えている気持ちがホンモノ?

私は何を信じればいい?

ねぇ、北斗…

頬に伝う涙もそのままに

私は静かに一歩ずつ離れた

さっきまで幸せな気持ちでいっぱいだった心が、今はキリキリと突き刺すように痛む

すごく苦しいよ、北斗…

ーガチャ

「おわぁっ!?びっくりしたぁー!
詩じゃんか…
って、おい…どうした?泣いてんのか?」

突然開いた扉から出てきた錬に顔を覗き込まれた私は、次の瞬間抱き上げられていた

突然の事にも反応出来ない私は

ただ優しく背中を撫でてくれる錬に

そのまま身を委ねて声にならない声を上げて

泣きじゃくった

≪〜〜〜〜〜≫

この胸の痛みが何なのか、どうして苦しいのか、どうしてこんなにも涙が溢れて止まらないのかも…私には分からないよ


誰か、助けて欲しいよ…

錬の言葉を不審に思ったみんなが驚き、

切なく顔を歪めていたなんて

錬の胸にしがみついて泣く私は
自分のことでいっぱいいっぱいで知らなかったんだ…

私を抱き上げながら、優しく背中を撫でてくれる錬が総長室から出てきて驚きの目で私を見つめていた北斗を睨んでいたことも…
















北斗side

昨日、俺は詩に告白をした

恋愛感情での好きが分からないけど

俺のことは好きみてぇだから安心した

絶対詩に彼女になって欲しい

俺だけのモノにしたい

返事は遅くても構わねぇ

俺の気持ちは精一杯伝えたんだし気長に待つつもりだ

告白すんのも緊張したけど、待つのも案外ドキドキするもんだなぁ

にやけそうになる顔を見られたくなくて

総長室へと移動した俺に一本の電話が入った

俺と奏と、もう1人の幼馴染である穂花だ

「もしもし、どうした」

『北斗…最近またお父さんに叩かれるの。
やっぱり…っう…っひく…私のこと嫌いなのかな?要らない子なのかなぁ〜?
北斗も……っ私のこと……っひく……嫌い?
守ってくれないのぉ?」

電話越しの穂花は泣きじゃくり、昔からの口癖を口にする

穂花の家は父子家庭で、何かあると親父さんは穂花に手を挙げる人で、その度にこうやって泣きながら自分は嫌われているのか、
要らない子なのか、俺や奏に嫌いかを聞いてくる

そうやって確かめることで、自分の存在意義を求めてくる

その度に俺はこう言う

「…好きだって、穂花。
守ってやるって言ったろ?
だから、心配すんな」と…

そうすれば決まってお決まりの文句が
返ってくるんだ

『…ホント?守ってくれる?好き?』って

穂花は俺の幼馴染であり、妹みたいな存在だから何かあれば守ってやるし助ける

「当たり前だろ、幼馴染なんだからよ。
家にいるのが辛いんなら、倉庫に寝泊まりするか?奏もいるしよ」

『え、いいの?倉庫に寝泊まりしても…』

「あぁ、穂花が落ち着くまでいればいい」

『ありがとう!奏くんにも会いたいし
行きたい!倉庫に着いたら連絡するね!』

「おぅ、分かった」

通話を終えてフッと溜め息が出た

穂花が小さい頃にお袋さんが病気で亡くなってから、親父さんは穂花に手を挙げ始めた

“お前が死ねば良かった”

“お前なんか要らない!あいつを返せ!”

“俺はお前が大嫌いだ”

そんな言葉で罵って手を挙げられると、いつも俺や奏に泣きついて来てたけど…

それは穂花が中学生の頃に治ってたはずだか、また始まったのか?

一体何があったってんだよ…

まぁ、とにかく穂花が元気になるまで

倉庫に寝泊まりさせるか

アイツらにも説明しとかないとな

ーガチャ

は?なんなんだ、この状況は…

総長室の扉の先にアイツらと、錬に抱き締められてる詩が居た

錬は睨んでくるし、他のヤツは今にも泣きそうに顔を歪めて詩を見つめてるし…

一体何があったってんだよ…

俺はただ呆然と立ち尽くしていた

詩side

大きくて温かい何かに包まれながら私は夢を見ていた

孤児院に捨てられる前の辛くて悲しい頃の夢

アメリカ人のママと日本人のパパとの間に生まれた私は、容姿がママそっくりで虐められる事もあったけど、2人が居ればそれだけで幸せだった

笑顔が素敵なママと優しいパパが居れば…

だけど

ママが私を庇って事故に遭って亡くなって

パパは変わってしまったの

ママが居なくなってからの私はパパに殴られたり蹴られたり、時には罵られる事も多くて毎日我慢して過ごしてた

“お前がアリアを殺したんだ!”

“お前なんか要らない!アリアを返せ!”

“アリアの苦しみを思い知れ!”

“お前なんか居なけりゃ良かったんだ!”

毎日のように続く言葉の刃で私の心は
ズタズタに傷付けられていた

でもそれはパパの大切な人を私が奪ってしまったからで、これは私に与えられた罪と罰なのだと幼心にも分かってたから…

ひたすら耐えた

殴られても蹴られても罵られても、パパには私に対してそうする権利があるって思ったから

だけど、我慢し続けた結果…

ストレスによる失声症で声を失い、感情をも失くしたただの人形みたいになってた

殴られても蹴られても、何の反応も見せない人形のような私に嫌気がさしたパパに、
小学2年生の頃捨てられた

小さいながらに、捨てられて当然なのだと理解していたの

孤児院で暮らし始めても私の心は凍ったまま、誰にも心を開くことはない壊れた人形だった私

私のせいでママは死んで、パパは苦しみ人格が変わってしまった

全部私が壊してしまったんだ

だから私は感情という感情を捨てて
毎日を過ごしていた

私は人の幸せを奪った人間だから、幸せになっちゃいけない

愛して貰っていた記憶は靄がかかって霞み、愛されなかった記憶だけが残った

だから孤児院に捨てられた日から

優しい笑顔で接してくれる園長先生にも

いつか捨てられるって思った

私はママを殺し、パパを変えてしまい

声を失って感情も無くなった人形だから…

私は要らない子なんだって捨てられる

捨てられる事が前提なら、初めから心を開かなければいい

優しくされたり、抱き締めて貰ったり

温もりを感じた後に失うことは、新たに傷を深くするだけだって身を持って知っていたからかもしれない

だから話せなくなった私は、とことんそれを利用した

話せないって分かったら自然と話しかけてくる子も減って、気付けば私は孤児院の中でもいつも1人だった

人は簡単に変わる…

心も体も気持ちも言葉も…

その度に心がキリキリするくらいなら、初めから距離を置いておけばいいし、他人との間にバリアを張って私に近付けないようにすればいい

人は必ず離れていくし、信じるのも難しい

人の心なんて、そう簡単に分からないもの

みんなが私の心を分からないように

私もみんなの心が分からない

そんな完全なる人間不信の私の傍には

いつも園長先生が居て、私がやることなす事に喜怒哀楽の表情を浮かべて、無視しても離れずに接してくれた

そんな日々が4年程続いた…

私は相変わらず話せないままだったけど

中学生に上がる頃には園長先生には

心を開いて感情も戻りつつあった

どんなに突き放しても、変わらずに傍に居てくれた心優しい人

カチカチに固まってしまった私の氷のような心を傷つけないように、少しずつ温めて溶かしてくれた

そして優しさだけじゃなくて、時には厳しさも教えてくれた

これから先にあるのは幸せな事ばかりではなくて、辛く悲しい事も沢山ある

前に進めなくて立ち止まっては、
何度も後ろを振り返る事もあるかもしれない

もう歩くのもやめたいと思うかもしれない

それでも諦めずに歩みを進めていれば
今までとは違うものが見えてくる

人と同じペースでなくていい

自分のペースで歩いていけばいい

自分の歩く道は自分だけのものだから、その道の上なら寄り道しても立ち止まっても
後ろに戻っても構わない

そういう過程があって未来の自分が造られていくんだよって園長先生は言ってたっけ…

だから傷付けられるんじゃないかって
疑うよりも、1度相手を受け入れてみる

信じれるか信じられないかは
相手と同じ目線に立ってから

見えている姿だけでどんな人かを決めつけないで、見えていない内に秘めるものを見つめなさい

そう教わって私は中学校から、諦めかけていた人との関わりを持とうと必死だった

だけど、努力は実らず3年間を過ごして卒業…

でも3年間人と関わることを努力した結果

私は声を出せない以外は変われたんだ

壊れた人形の面影はなくて

本来の私に戻れたと思う

感情を殺すことなく出せるようになったし、心も強くなった

人を信じる強さを持てた

全部全部、園長先生のお陰なの!

だけど、どうしてだろうね…

人が変わる瞬間を見てしまったら…

それが大切で大好きな人だからこそ
動揺して怖くて、信じることがすごく怖いなんて思ってしまった

星竜のみんなは、信じられるし信じたい人達なのに、怖いと思ってしまう私は最低だよね

でもすごく怖いの…

離れていかれるのが…

捨てられるのが…

嫌われるのが…

そして1番怖いのは、みんなを信じることが出来なくなりそうな自分だ

北斗…

あなたは信じれる人ですか?

















奏side

北斗を含めた幹部全員が揃った幹部室には

今までにないほどの重い空気が立ちこめてる

錬の腕の中で泣き疲れた詩ちゃんは

今もまだ目を覚まさない

さっきまでは元気だったはずなのに…

総長室へ行った後に何かがあったはずなんだ

「北斗…詩ちゃんと喧嘩でもしたの?
総長室に行くまでは元気だったんだ…
だから、北斗との間で何かあったんだとしたら
僕はその理由が知りたい」

僕の話を聞く北斗はスヤスヤと眠る詩ちゃんに

視線を送りながら呟いた

「いや、喧嘩なんてしてねぇよ…
部屋に俺は居たけど、詩は来てない」

「喧嘩じゃないんだ…
でも可笑しいよ、詩ちゃんは北斗がどこにいるかを
僕達に聞いて、その後すぐに総長室に行ったから。
だけど、数分後には泣いてた…
本当に覚えはないの?」

「そうだよ〜!ほんの数分前までは元気だった!
だけど変だよね…
総長室に行ったはずなのに北斗は
会ってないんでしょ〜?
なのに、詩ちゃんは辛そうに泣いてた…
この数分間に何があったんだろう?」

首を捻る奈留に冬も錬も頷いた

あんなに元気な笑顔だったのに辛そうに泣いて

そして何より、いつものようにキラキラした

綺麗な青い瞳の奥は光を失ってた

奈留の言う通り、部屋に向かった後に

何かが詩ちゃんをこうさせてしまったと

考えるのが普通だ

「間違いなく北斗の所へ行ったはずだけど
北斗が会ってないんだとしたら…

入らなかった…っていう可能性があると思う。
もしくは、入れなかったか…
一応聞くけど北斗は部屋で何かしてたの?」

「お前らには言ってなかったけど昨日詩に告った。
そん時に俺への気持ちが恋愛としての
気持ちかが分からないから返事は保留中だけど
好きだとは思ってくれてたみてぇだから
嬉しくて詩の事考えてたな。
あー、そん時穂花から電話があって
少し話したか……」

「え〜!?告白ぅ〜!?
って姫にしたんだから当たり前かぁ…」

北斗の言葉に驚くのも分かるけど

姫にしたんだから当たり前だよ、奈留

もちらん僕は北斗が詩ちゃんを好きなのは

探して欲しいって頼まれた時から分かってたけどね

だけど、そっか…

詩ちゃんも北斗が好きなんだ…

なんとなく、そうなる事は分かってたけど

少し複雑だな

というか、穂花と電話してたって…

もしかして?

「北斗、穂花と電話してたって言ったよね?
もしかして…また例の件で?」

「あぁ、最近までなかったのに
また始まったみてぇだ。
何とか落ち着かせたけど…
それから、穂花は落ち着くまで此処で
寝泊まりさせる」

北斗の言葉で確信した

詩ちゃんはきっと北斗の電話を聞いて

部屋に入る事が出来なかったんだ

穂花を落ち着かせる為の僕ら2人にとっては

合言葉みたいなものでも

理由を知らない人から聞けば…ましてや

好きな人が自分以外にその言葉を呟いたら

ショックを受けるはずだ

だとしたら詩ちゃんのあの辛そうに泣く姿は

納得出来るね

泣くほど好きって事だから…

僕も好きだったんだけどなぁ、詩ちゃん

誰にでも一線を引いて心を開いた事のない

僕が人生で初めて好きになれた女の子

誰にでも優しくて包み込むような笑顔と

見返りなんて求めない無償の愛情が

星竜全体を変えた

此処に居るみんなもきっと同じ気持ちなはず…

女の子嫌いな奈留も、人間不信な冬も

見た目で判断されて辛い思いをした錬も

口には出さなくても、きっとみんな

詩ちゃんが好きなんだ

だけど北斗が詩ちゃんを大切に想う気持ちが

分かるから胸にしまって2人の幸せを

願ってたけど、まさかこのタイミングで

こんな事になるなんて…

きっと詩ちゃんは北斗に気持ちを伝える為に

北斗の所へ行ったはずなのに

きっとあの合言葉を聞いてショックを受けたんだ

「北斗、穂花を落ち着かせる為の合言葉を
使ったんじゃない?
それを詩ちゃんは…部屋に入る前に聞いて
しまったと思う」

僕の言葉に驚き、言葉を失った北斗を見て確信した

だけどね、北斗…

いくら穂花を落ち着かせる為でも

その言葉は本当に好きな子が出来たら

使うべきではなかった

しかも、落ち着くまで此処に寝泊まりさせるなんて

詩ちゃんはきっと不安がるよ

いくら言葉で尽くしても行動が伴わなければ

意味がないから…

穂花が此処に来てしまったら

絶対に北斗にべったりになるから

たとえ理由が分かっていても

きっと辛い思いをするはず

北斗は気付いてないかもしれないけど

穂花は昔から北斗が好きだから

北斗の気持ちが詩ちゃんに向いてるって

分かれば何をするか分からない

僕ら2人の穂花を落ち着かせる為の合言葉を

穂花は本気だと思ってるからね

だけど詩ちゃんが大切なら此処に寝泊まりさせるのは、詩ちゃんにとっては酷なことだよ…

考え込んでいる中、錬の言葉が重く響いた

「さっきから2人で話進めてるみてぇだけど
その穂花って子の事とか、合言葉とか
寝泊まりさせるとか…
俺らには説明無しか?
それに、その合言葉を聞いて詩が泣いたんだとしたら俺は賛成出来ないぞ。
そこにどんな理由があったとしても」

錬の言葉に奈留も同調した

「僕もどんな理由があったとしても
此処にその子が来るのは賛成出来ないよ。
いくら総長の北斗の言葉でもね…
それに…詩ちゃんが泣くのは
もう見たくないよ」

錬の腕の中で眠る詩ちゃんを悲しそうに

見つめながら呟くように語る奈留の瞳は

さっきの詩ちゃんの悲痛な姿を思い出してるのかもしれない

「…俺も…そう思う。
詩の笑顔…見れないのは…嫌だ」

普段からあまり話さない冬も同じ気持ちなんだ

僕もそう思うよ…

どんな理由があったとしても

大切な人から笑顔を奪いたくない

ましてやそれが好きな子なら…

「僕も皆んなと同じ気持ちだよ。
それに今回はそれで落ち着かせる事が出来ても
また同じことが起きれば同じことの繰り返しで
根本的な解決にはならないよ、北斗…
詩ちゃんが大切なら此処に穂花を連れて来るのは
賛成出来ない。
僕にとって詩ちゃんは姫であり
大切な子だから…」

僕の言葉に目を見開いた北斗は

此処に居るみんなが詩ちゃんが大切で

好きだと気付いたと思う

言葉を発することが出来ないでいる北斗を

横目に僕は穂花の事をみんなに話した

それを聞いてそれぞれに思うことがあるだろうけど

みんなの瞳は詩ちゃんに注がれてる

その目からは同様の決意が見て取れた

それは、どんな理由があったとしても

詩ちゃんを悲しませることになるなら

守って見せるという強い気持ちだ

北斗、これを見ても穂花を優先させるの?

僕は詩ちゃんを優先させるよ…

















詩side

ん〜…なんだか頭が痛いし瞼が重い

ゆっくりと目を開けると何故か

錬に膝抱っこされていてプチパニック!!

アワアワする私に気付かずに皆んなが

真剣な表情で話してて内容はちんぷんかんぷんだ

確か北斗の部屋の前で北斗が誰かに

好きだとか守るとかって言うのを聞いて

ショックで泣いた私を錬が支えてくれて…

ん?その後どうなったんだっけ?

でも未だに錬に抱えて貰ってるって事は

そのまま寝落ちしたの!?

何とも情けない…

そんな事をぼんやり考えていた時だった

幹部室の扉が突然大きな音を立てて開かれて

私の視界の端に北斗に抱き着く女の子が見えた

栗色のセミロングの髪をポニーテールにして

色白でスタイルの良さげな可愛い子…

もしかして、この子が穂花さん?

その瞬間胸がギリギリと音を立てた

「北斗〜!早速会いに来ちゃった!
今日からここに寝泊まりしてもいいんでしょ?
早く会いたくて急いで来たんだよ〜!」

ソファに座る北斗にべったりしがみついて

離れない穂花さんを引き剥がすことなく

甘やかすみたいに頭を撫でる北斗の姿に

胸がぎゅっと締め付けられて苦しい…

そんな私に気付かずに北斗は私に目もくれず

穂花さんを連れ立ったまま幹部室を出て行った

そっか…やっぱり北斗は穂花さんが好きなんだね

北斗だけは絶対離れて行かないって

思ってたんだけどなぁ…

たった半日で人の気持ちは変わってしまう

パパのように…

話せない私にうんざりしてなのか

そもそもその気持ちは私への同情なのかは

分からないけど

今更北斗に気持ちを伝えたって意味ないよね

こんなに苦しいなら気付かなければ良かった

諦めることには慣れてる

だから、私の気持ちは心から消さなくちゃ!

人を好きになる気持ちを捨てて来た私なら

きっと出来る

北斗…

私が男の子を好きになったのは貴方が

初めてで一生に一度の恋だったと思う

感情を失くしてしまった私に

好きを教えてくれた人なんだよ?

でも…忘れるからね

だから、穂花さんを大切にしてあげてね?

一度目を閉じて開いて

錬の袖を引っ張って起きた事を伝える

「詩…起きたのか?大丈夫か?」

ねぇ、錬…貴方はどうしてそんなにも

辛そうな顔するの?

いつも太陽みたいに明るい笑顔が見たいよ

だから笑って?

そんな意味を込めて私は精一杯微笑んだ

錬に支えて貰いながらゆっくり起き上がると

奏も奈留も冬も、いつもの元気がない

私が泣いちゃったから心配かけたのかな?

でも大丈夫だよ?

私、もう泣かないから

だから、笑って欲しいな

皆んなの笑顔は私の元気の源なんだよ?

だから、笑って?

皆んなに視線を送って精一杯微笑んだ

皆んな驚いた顔してる!

ふふふ!そうだよね!

泣き疲れた私が起きてすぐにニコニコしてたら

驚かせちゃうのも無理ないよね

しかもピクリとも動かないなんて

なんだか変なの〜!

ふふふっ、普段から元気いっぱいの皆んなの

この表情はすっごくレアだ!

堪え切れなくて笑う私を見て

皆んなに笑顔が広がった

ツキツキとまだ胸は痛むけど

皆んなの笑顔が私にパワーをくれるから

私も精一杯笑顔でお返しだ!

ポケットからメモを取り出して皆んなに見せた

≪皆んなに心配かけちゃったみたいでごめんね。
でも、私は大丈夫だよ!
皆んなの笑顔が私にパワーをくれたからね!
ありがとう!≫

メモを覗き込んだ皆んなは笑顔で頷いた

「僕から北斗の事で話があるんだ。
きっと詩ちゃんは北斗の部屋に入る前に
何かを聞いたと思うんだ。
だけど、それは僕と北斗の幼馴染の女の子に
向けて言った言葉で深い意味はないんだ。
だから気にすることはないからね?」

奏の言葉に首を傾げる私に丁寧に説明してくれた

穂花さんは、北斗と奏の幼馴染で

小さな頃にお父さんから度々暴力を振るわれて

その度にある合言葉を呟いて落ち着かせてきたこと

それは「好き、守る、ずっと一緒」って言葉

それを聞かせると穂花さんは安心するんだと

そして、最近までは落ち着いていた暴力が

また始まり出したこと

穂花さんが落ち着くまでここに寝泊まりすること

だけど、ここに居る皆んなは反対してること

だから、北斗の穂花さんへの言葉は

深い意味はなくて落ち着かせる為だけのものだってこと

「だから詩ちゃんは何も気にしなくていいよ」

笑顔の奏が頭を撫でてくれた

そして錬も奈留も冬も頷いた

穂花さんの話を聞いて辛いんだろうなって

思う反面、羨ましいって思っちゃう私は

悪い子かもしれない

だって、助けてくれる人が傍にいるんだもん

私には誰も居なかったから…家族も友達も…

だけど、皆んなが居てくれる今は

すっごく幸せだから

北斗が傍に居てくれなくても…

それに星竜の皆んなも居てくれるから大丈夫!

だから、生まれて初めての好きは

思い出として大切に胸にしまっておこうと思う





北斗side

電話してた時、泣いてたとは思えないくらいに

元気な穂花は総長室に来てからも

べったり張り付いて離れねぇ

「穂花、親父さんからまた殴られたんだろ?
傷の手当してやるから、見せてみろ」

するといきなり下を向いて話し出した

「一応ワタシも女の子だから、服の中は
見せられないよ…
たしか、さっきの部屋に女の子居たよね?
その子にお願い出来ないかな?」

俺の服の袖を引っ張って上目遣いで

頼み込む穂花

けど…

俺の電話を聞いて泣かせちまったんだよな…

なのに、その原因である穂花の手当てを

詩に頼むなんて出来るわけねぇよ

「詩は俺ら星竜の姫だし、俺の大切なヤツだから
手当ては奏にでもしてもらえ。
それと、この部屋は姫以外は本来なら
立ち入り禁止だから、寝泊まりするのは
下っ端の空き部屋だから。
まぁ、とにかく奏呼んでくるから」

そう言って立ち上がりかけた俺の腕に

しがみついて離れない穂花

「ワタシも北斗にとっては大切な人間でしょ?
小さい頃からワタシは北斗が好きなんだよ…
北斗もワタシの事好きだって言ってくれたじゃない。
両想いだと思ってたのに違うの?
守ってくれるって、ずっと一緒に居てくれるって
言ったじゃない!」

興奮する穂花の手を腕から離した

「それは幼馴染としての言葉であって
好きなヤツは詩だけだ。
守りたいと思うのもずっと一緒に居てやりたいと
思うのも詩、ただ1人だ。
だから穂花の気持ちには応えられない。
とにかく奏呼んでくるから」

困惑と悲しみを宿した目を向ける穂花を置いて

俺は部屋を出た

「許せない…ワタシの北斗を奪うなんて。
絶対に許さない…」

俺が部屋から出た後、穂花が呟く言葉に

俺は気付かなかった…

もしこの時気付いてたら

詩から笑顔を奪わずに済んだのに…





















詩side

幹部室で皆んなでワイワイしていると

扉が開き、入ってきたのは北斗1人

心なしか部屋の空気がピリピリしてる気がする

それを裂くように北斗が話し出した

「穂花の手当て、奏やってくんねぇか。
あと、落ち着くまで寝泊まりさせるのは
下っ端の空き部屋にする」

北斗の言葉を聞いて皆んなの顔が歪んで見えた

「北斗、穂花の手当ては勿論するけど…
寝泊まりさせるのは僕は反対だよ。
いくら幼馴染だとしても、穂花も子供じゃないんだ
学校の友達とかもいるでしょ?
それに星竜の出入りを許せば必然的に穂花も
守る対象になる。
僕達の守るべき対象は姫である詩ちゃん…
ただ1人だよ。
いくら総長の言葉でも僕は従わないから」

奏の言葉に他の皆んなも大きく頷いた

「僕も反対だよ。
いくら幼馴染だとしても、僕らは暴走族。
守る対象が増えれば増えるほど危険は増すんだ。
それに、言っちゃあ悪いけどあの子のせいで
詩ちゃんを悲しませるなら許さないからね!」

力の籠もった瞳で北斗に話す奈留は

錬に抱き抱えられたままの私にニコニコと

笑顔を見せて北斗の視線から私を守るように

背中に隠した

冬も立ち上がり私の前で胡座をかいて座り頷いた

「俺も奏や奈留と同じ気持ちだぜ。
姫として迎えたのは北斗だろ?
なら誰を1番に守らないといけねぇのか
考えなくても分かるはずだよな。
なのに、北斗は詩を泣かせたんだ…理由はどうであれな。
俺は詩には笑顔でいて欲しい。
それを奪う事はここに居るヤツは許さねぇよ」

錬の硬い声色と

皆んなからの言葉を聞いた北斗は

今どんな顔してるんだろう?

抱き抱えられたままの私からは見えないけど

優しい北斗は悩んでるんじゃないかな…

だって小さな頃からの幼馴染なんでしょ?

それに暴力を振るわれてるのを聞いて

ほっとけるわけないもん

私にとって孤児院がそうであったように

穂花さんにとっても北斗や奏は助けて貰える

大切な存在だと思うの

私みたいに声を失ってからじゃ遅い

それくらい親から受ける暴力はとても

辛くて悲しいこと…

皆んなが私を想ってくれるのはすごく嬉しいけど

同じ経験をした私には、その辛さが分かるから

ほっておくなんて出来ないよ

暴走族である星竜にとってリスクがあるのも

分かるけど穂花さんがそのリスクを承知で

ここに居たいなら、そうしてあげたい

私の過去からの経験を踏まえて言葉を綴る

≪皆んなが私を想ってくれてるだけで嬉しい。
だけど、私も穂花さんと同じ経験をしてるから
辛さは分かるの。
声を失ってしまったのも親の暴力が
原因の1つだから
私みたいになる前に助けてあげたい。
それに、北斗や奏にとって大切な人なら
私にとっても大切な人にかわりないの。
穂花さんがリスクを承知でここに居たいなら
私は賛成だよ!
ただ、ここに逃げ込むだけじゃ解決にはならない。
気持ちが落ち着いても戻ればまた繰り返される可能性は高いの、残念ながら。
だから、安心してお家に帰れるように
穂花さんが居る間に策を練らなくちゃ!≫

皆んなの気持ちを無下にしてるみたいで

すごく申し訳ないけど…

私はメモを錬に渡した

そして目を通した錬、奈留、冬、奏は

今にも泣き出しそうな表情を浮かべて

次の瞬間抱きついてきた!

わわわっ!!く、苦しい〜〜!!

もがく私に気が付いて離れてくれたけど

やっぱりその表情は暗くて切ない…

そんな顔じゃなくて笑顔でいて欲しいのにな〜

皆んなの顔を1つずつ見つめて私は

笑顔で唇を動かした

『だいじょうぶ』

私の顔を見てぎこちないけど少しだけ

表情を緩めた皆んなに、またニッコリ笑ってみせた

そして、私から北斗へ視線を移した奏は

フゥーっとひと息ついてから話し始めた

「僕等はまだ穂花の事、反対だけど…
姫である詩ちゃんは穂花の為になるなら
賛成だそうだよ。
だけど、1つ言っておく。
穂花にはここに居る間はこの部屋にも
勿論、総長室にも出入り禁止で
下っ端の皆んなと同じ部屋に居てもらうから。
それと、ここに居ることのリスクも承知でいることが条件だよ。
僕等は詩ちゃんが第1優先だってことも
伝えるからね」

そう言って救急箱を持って幹部室から出て行った

奏が出て行った扉から視線を外して

息を吐いた北斗は私を見つめながら

「詩、すまない…」

と、切なそうに瞳を揺らした

そんな北斗に私は笑顔で首を振った

私が泣いたりなんかしちゃったから

こんな事になったんだよね…ごめんね……

だけど、そんな顔しないで欲しいの

北斗にも皆んなにも笑顔でいて欲しいから

私の想いは今この瞬間消さなくちゃね

初めての恋が北斗、貴方で良かった…

ありがとう……

これからは穂花さんを守ってあげてね

そしたら私はここから消えるから

それまでは精一杯星姫として頑張るね!
奏side

北斗からの頼みで穂花の手当てをする為に

総長室まで来たものの…

僕は扉を開ける事に躊躇してしまう

小さい頃からの幼馴染である大切な存在ではある

だけど、穂花の存在が詩ちゃんを苦しめてる現実に

僕は胸が苦しくなる

想いを伝える事は出来ないけれど

好きな人には笑顔でいて欲しい

だから穂花を此処に置いておくのは

非情かもしれないけど叶えてはあげられない

それに穂花自身にもリスクがかかるし

星竜の皆んなにリスクを背負わせることになる

それに1番の懸念は穂花が北斗を好きだという事…

小さい頃からの合言葉で穂花は北斗が自分を

好きだと勘違いしてる

北斗も僕も幼馴染以上の感情は全くない

だからここではっきりと線を引かないと

穂花はワガママ放題だから、間違いなく北斗の

気持ちを知れば、詩ちゃんに敵意を向けるはずだ

そうなれば詩ちゃんは優しいから

最悪、北斗への気持ちを閉ざしてしまう

星竜の皆んなにも…

僕は固い決意を持って扉を開いた

ーガチャッ

「穂花、手当てしに来たよ」

僕に気付いた穂花はニコニコ笑って近付いて来た

「奏くん!ありがとう〜!
やっぱり持つべきものは幼馴染だねぇ!
パパから逃げて来たけど北斗が居ていいって
言ってくれたから、嬉しくて飛んで来ちゃった!」

あの頃は僕も北斗も穂花を守るために

安心させることを最優先に言葉や行動で

落ち着かせてきたけど…

でも、何故だろう?

暴力を振るわれた割にはご機嫌で

昔のように怯えは感じない

それに叔父さんからの暴力がまた始まるなんて

突然すぎて少し疑わしい気がする

「久しぶりだね。
それにしても叔父さんからの暴力をは
いつから?
ここ数年何もなかったのに…
何があったの?
…まぁ、とりあえず手当てしようか」

「うん、ここ1カ月くらいはずっとだよ。
お仕事でイライラしてるのかも…
最初は物に当たるだけだったんだけどね。
あの、でも私も年頃になったから
手当ては奏くんじゃなくて、さっきの部屋に居た
女の子にしてもらいたいの!
脱がないと見せれないところもあるし…」

「なら、病院に行った方がいいんじゃないかな?
あの子は星竜にとって大切な存在だし
姫だから。
穂花には突き放す言い方になるけど
ここは暴走族の倉庫だって知ってるよね?
守る存在が増えるって事は星竜全体が
大きなリスクを背負う事でもあるし
勿論、穂花の安全も保証出来ないんだ。
叔父さんからの暴力からは逃げられても
此処にいればそれ以上の危険に晒される。
北斗からも聞いてると思うけど、あの子は姫で
北斗の大切な人なんだ。
だから、正直言って僕は穂花を歓迎出来ない」

「でもっ!病院に行ったらお父さんが
捕まるかもしれない…
そしたら、その後私はあの家に1人になっちゃう。
だから病院へは行かない。
ワタシには北斗と奏くんしか頼れる人がいないの
知ってるでしょ?
なのに、なんで!?
あの子は他の人がいるけどワタシには2人しか
居ないのに!!
まるでワタシが邪魔者みたいに聞こえるっ!」

穂花の瞳は、怒りに満ちてる

確かに叔父さんが捕まれば、あの家には

穂花1人になるかもしれないけど…

明らかに詩ちゃんに対しての敵意を感じるし

やっぱり此処には置いておけないな

例え幼馴染だとしても詩ちゃんを苦しめる存在は

此処に居て欲しくない

此処に居る以外で対処しないと…

「穂花、あの子はね…
北斗が見つけた大切な存在なんだ。
穂花に対する気持ちは幼馴染としての情で
あの子に対しては、そうじゃないんだ。
星竜にとっても必要な姫だし
あの子にとっても星竜も北斗も特別な存在なんだ。
此処に居る以外の方法で助けられる方法を
探すから、此処に来るのは遠慮して欲しい。
邪魔者とかは思ってないよ?幼馴染だしね。
だけど星竜の副総長としての判断は
姫が最優先で守るべき存在だから。
あの頃とは状況が変わったんだ」

「じゃあ、ワタシも姫にしてよ!
他に方法がないから此処に来たのに
酷いよっ!!
昔はワタシが2人の傍に居たのに…
あの子だけズルイ!!」

はぁ〜、駄目だ…

今の穂花には何を言っても届かない

言えば言うほど詩ちゃんに敵意を向ける

ここは姉さんに頼むしかないかもしれない

姉さんは穂花があまり好きじゃないから

頼んでもオーケーしてもらえるかは分からないけど

頼みこむしかないみたいだね

穂花には悪いけど…

早速連絡してみるか

僕はポケットの中の携帯を取り出して

姉さんに連絡してみた

ープルルルル

数回目のコールの後に聞こえたのは

久しぶりの姉さんの明るい声

『もしもーし!奏、元気にやってる〜?
私はこの電話が鳴る前まではご機嫌だったけど
内容が分かってるから一気にテンションが
だだ下がりよ〜!
どうせまた、幼馴染ちゃんのお世話でも
頼みたいとか言うんでしょう?
本音は嫌で仕方ないけど、可愛い弟の為なら
仕方なくお世話行くわぁ……
で?何処に行けばいいのかしらぁ?」

「元気だよ、忙しいのにいきなりで
申し訳ないんだけど……倉庫に来れるかな?
詳しい事は来てから話すよ」

『了解よ!30分くらいで着くようにするから!
まぁ、とにかく急いで行くわ。
また後でね〜』

ハァ〜と溜め息をついてしまう状況だ

でも看護師の姉さんが診察兼治療をしてくれたら

穂花の言葉が真実かどうかがハッキリする

疑いたくはないけど、北斗率いる星竜に

姫が出来たのを聞いて此処に来てるのだとしたら

さっきの言動は間違いなく詩ちゃんへの嫉妬と

考えたくもないが問題を起こしそうで

頭が痛くなる

とにかく姉さんが来るまでは仕方ないけど

此処に居てもらおう

詩ちゃんへの接触は少しでも避けたいからね

「もうすぐ姉さんが来るから
それまでは此処から出ないでね。
星竜の関係者じゃない穂花が倉庫を彷徨くと
下っ端も動揺するし…
何より怪我してるんだし大人しくしてなよ。
治療が必要なくらい痛むんでしょ?
姉さんが到着したら、また来るよ」

「奏くん、傍に居てくれないの?
穂花1人だと心細いよ…
奏くんが無理なら北斗呼んでくれない?」

出たよ、ワガママ…

世界が自分中心に回ってると思ってる感じは

本当に昔から変わらないな

だけど、此処に居る以上はそれは聞けない

「北斗は今忙しいんだ。
だから、穂花は此処でジッとしててくれる?
星竜総長としてこれからの事を話し合わないと
いけないのに待たせてるから
早く戻らないといけない。
じゃあ、また後でね」

顔を真っ赤にして頬を膨らませる穂花を

一瞥して総長室を後にした