北斗side
気を失ってしまうほどの事が
起きたのだろう事は十分に分かった
いつも笑顔の詩がここまでなるなんて
よっぽどのことだ
俺の腕の中で小さな身体を震わせる
詩は離せば消えてしまいそうだ
クソッ!!
あの時…
俺が目を離さず傍に居てやれてれば
こんな詩を見なくて済んだし
させなくて済んだってのに!
こんな風にさせた何かに腹が立つけど
俺自身が1番腹立つんだよ
守るって約束したっつうのに…
何やってんだ、俺
いや、後悔してウジウジするよりも
腕の中にいる詩を安心させてやらねぇとな!
星竜の総長として…
1人の男として、詩を今度こそ
守ってやる
抱き締める腕に力を込めた
奏side
思い出す姿は、いつも通りの詩ちゃんで
やっぱりこんな時だけど可愛い…
だけど、そう思った次の瞬間
詩ちゃんの肩が少し不自然に跳ねた
何かあったと、この場にいる僕達には
すぐに分かった
しかも少し震えてる
笑顔がトレードマークの詩ちゃんが
ここまで変わる何かって一体
なんなんだろう…
北斗の腕の中で未だに震える詩ちゃん
本当は僕だって、抱き締めて
何からも誰からも傷付けられないように
守りたいのに…
そう出来ない自分が悔しくもあり
寂しくもある、複雑だな
この手で君を守りたかった
今もその気持ちは変わらないけど
北斗の腕の中に収まる君と
君を大切そうな優しい目で見つめる北斗に
微笑ましい気持ちもあるんだ
詩ちゃん自身が自分の気持ちに気付くまで
僕が君を好きでいること…
許して欲しいんだ
いつかのその時まで、どうか…
詩side
北斗の優しい声が聞こえる
「何か…思い出したのか?
俺が傍に居てやるから話してくれねぇか。
怖いならこうしててやる…
絶対守ってやるから」
腕の中から顔を見上げて北斗に
小さく頷いた
「もちろん、僕たちもここにいるからね。
無理に全部話さなくていいから…
言える範囲でね?」
そう言って穏やかに笑う奏
「そうだぞー!俺らみんな居てやるから!」
「そうそう!大丈夫だからね〜!」
「…無理は禁物」
錬…奈留…冬…
みんながついててくれるなら
話せるかな
あ、紙とペンあるかな?
ジェスチャーをすると奏が私の
相棒のノートとペンを渡してくれた
私はあの男の子の事を書いて見せた
≪うん、教室で接客してた時にね
廊下から視線を感じたから
目を向けたの。
そしたら、男の子が1人居て…
その子が私に笑ったの。
笑ってるのに笑ってないみたいな
すごく不気味な感じで…≫
「…男が1人か」
北斗の呟きが保健室に響いた
他のみんなも眉間に皺を寄せて
考えこんでる
「そいつが誰なのか詩は
知らないんだよな?」
北斗の問い掛けに頷いた
「奏は学校内の監視カメラのハッキングと
この辺で星竜を狙う可能性大の族を調べてくれ。
錬と奈留、冬は下っ端に連絡して
校内に不審な奴が居なかったか調べろ。
俺は詩を1人には出来ねぇから
ここで待機する。
何か分かり次第連絡してくれ」
「「「「了解!!!!」」」」
北斗の指示にそれぞれが動き出した
私が倒れたせいで迷惑掛けちゃって
すごく申し訳ないな…
肩を落とす私の耳に北斗の優しい声
「詩のせいじゃねぇから気にするな。
1人で抱え込むくらいなら
頼ってくれた方が俺らは嬉しいんだからな。
詩は1人じゃねぇ、星竜みんながついてる。
今はとにかく仲間を信じて待とうな」
うん、そうだね
私1人じゃないんだ…
みんながついててくれる
今はそれに頼らせて貰おう
北斗に笑顔で頷いた
保健室には北斗と奏と私だけが居て
静かな空間に奏のパソコンの
カタカタという音だけが響く
みんなが動き始めてから
どれ位の時間が経ったかは分からないけど
ひとつ思い出した
不気味な笑みばかり頭に浮かべてたけど
特徴も少しだけなら覚えてる
ノートに思い出した特徴を書いて北斗に
見せてみた
≪その子の特徴思い出したよ。
たしか、黒髪に眼鏡をかけてて目は
私と同じ青い色してた。
あと、紺色の学ラン着てたよ≫
「お手柄だ、詩。
これで探す範囲が絞れるかもしんねぇ。
奏、詩を見てた奴の特徴だ」
北斗から受け取ったノートに
目を通した奏は了解、と言って
みんなに連絡を取りながら
猛スピードでパソコンを操作し始める
す、すごい!
2つの事を同時進行させるなんて…
思わず奏に尊敬の眼差しを送りながら
拍手する私を見て奏は一瞬キョトンと
した後、唇に弧を描いて笑った
私から目線を外した奏の頬が
少し赤くなったのが気になったけど
私を抱き締める腕に力が入って
意識が奏から北斗に移った
さっきまで優しいオーラは消えて
今度は拗ねてる子供みたいに
プイとわたしから顔を背けるんだけど
視線はチラチラ私に送ってくる
北斗どうしたのかなぁ?
視線を合わせようと下から覗きこんで
首を傾げてみた
そしたら、次は片手で顔を隠すもんだから
私には何が何やら分からない
だけど隠しきれてない耳は真っ赤で
余計に私の頭の中はハテナだらけだ
う〜ん?
あ!もしかして私がずっと引っ付いてるから
暑くなってきたのかも!
≪北斗、私が引っ付いてるから
暑くなってきたんじゃない?
震えも止まってるし、離れるよ!≫
そう書いて見せると片手の指の間から
ノートに目を通した北斗は一言…
「嫌」
え?嫌って…
そしてさっきよりも少し強く
抱き締めて私を膝の上に乗せたまま
私の肩におでこを乗せた
ふふふ、なんだか子供みたい!
少し和んだ気持ちになった私の耳に
奏が一言呟いた
「北斗、分かったよ。
詩ちゃんが見た男は、最近伸び始めた
ナンバー3の族、北星(ほくせい)の総長…
名前は島田岳斗(しまだがくと)だよ」
「北星の島田か…」
何やら難しい顔で眉間に皺を寄せた
北斗に私は不安になったけど
そんな私に気付いたのか
見つめる瞳は優しくて温かい
いつもの北斗だ
「そんな不安そうな顔すんなよ。
大丈夫だから、俺らに任せとけ。
絶対に守ってやるから。
だから詩は笑っててくれな」
その言葉に私は笑顔で頷いた
詩side
もしもの事を考えて文化祭を
早退する事になった私とみんなは
教室に1度戻ってきた
「詩!大丈夫?」
真っ先に私の名を呼び走って来たのは律だ
ノートに謝罪と感謝を込めて綴り
笑顔で見せた
≪心配かけてごめんね?
でも、もう大丈夫だよ!
文化祭放ったらかしになっちゃって。
念の為、今日は早退する事にしたの≫
読み終えた律は、ホッと一息ついて
頭を撫でてくれた
「友達なんだから心配するのは
当たり前でしょう?
でも元気になって良かったわ。
今は文化祭の事よりも
自分の事だけ考えなさい」
ありがとう、律!
こんな優しい律が私のお友達だなんて
私、幸せ者だよ!
ぎゅっと抱き着いて律に笑顔を見せる
優しい律に見送られながら
私と北斗達は倉庫へと向かった
倉庫に着いた私達を迎えてくれたのは
星竜のみんなだ
「「「お帰りなさい!!!」」」
倉庫には笑顔のみんなが居て
それだけで心が温かくなる
ただいまを込めて笑顔で
その輪に走りかけた私を抱き抱えた北斗
その瞬間、倉庫内はピシッと
固まってしまった
もちろん固まったのは空気もだけど
下っ端のみんなの顔だね
お帰りにただいまを言うのは
挨拶として当然だよね!
北斗に抱き上げられた私は頬を膨らませて
ジトーッと抗議の目を向ける
私は真剣に怒ってるのに
何故か北斗は笑顔で私を見て
とんでも発言を投下した
「本当可愛いな。
でも、そういうのは俺だけに見せろ」
なっ!?可愛い!?
こっちは真剣に怒ってるのに
意味不明な発言と無駄にキラキラした
笑顔で見つめるなんて…
きっと天然のタラシだね
でも、だけど!
イケメンは何をしても許されるなんて
私には通用しないんだからね!
ノートに≪挨拶は大事!≫と書いた
すると人が変わったように
みんなに挨拶を返してくれました
「ただいま」
下っ端のみんなは一瞬キョトンとした後
笑顔になった
北斗に続いて奏や錬、奈留と冬も
挨拶を返してくれて嬉しい!
っていうか、北斗以外はいつも
きちんと挨拶するんだけどね〜
みんなに笑顔で手を振って
幹部室へと到着した私達は
早速今日の出来事とこれからの対応について
話し合うことになった
シンとする空気の中、口火を切ったのは奏
それを私は定位置である北斗の
膝の上で聞く態勢に入る
「今日詩ちゃんの前に現れたのは
北星の総長、島田。
おおかた、星竜の視察を兼ねて
星姫になった詩ちゃんを見に来たんだと思うんだけど…」
シンと静まる中、声を上げたのは奈留だ
「でも不思議だよね〜。
視察とかってさ〜わざわざ総長自ら
するもんかなぁ?
そういうのは下の人間にさせない?」
「だよなー?俺もそれは考えたんだよな。
なんでわざわざ総長が現れたんだぁ?」
腕を組んで頭を傾げる錬
頭を悩ますみんなに
北斗の重低音の声で一言…
「星姫になった詩を総長自ら見に来た。
答えは1つ…星竜への宣戦布告だ。
近々抗争が起きる…
そうなればやる事は決まってる。
詩を守って必ず勝つこと」
北斗の言葉にみんなは頷いた
そこからは、いつ攻め込まれてもいいように
あらゆる想定を考えて作戦を練って
抗争へ向けて下っ端のみんなの
力の底上げや私の警護の強化について
話し合われた
そんな中、私はというと
こういう経験はゼロだから
話を聞いてもちんぷんかんぷんで
何も役に立ちそうにないなぁ…
みんなが頑張ってるのに
ただそれを眺めているだけなんて
なんだかムズムズしちゃう!
私に出来ることってないのかぁ
頭を悩ます私の頭に大きな手が
乗せられて視線を上げると
優しく見つめる瞳と目が合った
「俺らは詩が笑って傍に居てくれるだけで
頑張れるし、強くなれんだ。
けど、詩は違うんだろ?
だったら詩は詩でやりたいことを
やればいい。
ただ無事に終わるまでは少し自由が
制限されるし限度もあるが
縛り付けたくはねぇからな」
北斗…
私が何を思って考えてるかを
分かってくれてるんだね
ありがとう!
今自分に出来る精一杯のことをするね
みんなが私を守ってくれるやり方は
私には出来ないけど
私のやり方でみんなを支えられるように
頑張るからね!
北斗に笑顔で大きく頷いた
詩side
文化祭を早退してから2日後の昼休み
私は警護にあたってくれている
凛くんと幸くん、宏くんと
図書室にこもっています!
北斗にああ言って貰ってから
辿り着いた、私に出来る精一杯のことは
抗争に向けて頑張っているみんなに
温かい食事を用意する事と
もうひとつ…
抗争中やその後に怪我をした時のための
処置の仕方を覚えることなの
3人に手伝って貰いながら
あらゆる怪我に対応出来るように
医学的な事が書かれた本を
片っ端から読んでます!
喧嘩をして出来る怪我に詳しい3人にも
教えて貰いながらね
「詩さん、そういう場合は
こうやって固定しながら巻くんすよ」
凛くんと幸くんが実際を想定して
目の前でやってくれるのを見てるんだけど
なんという手際の良さなの!って
ものすっごく尊敬しちゃうよ
気付かぬうちに手元に顔を近づけて
見入る私の肩に手が添えられた
「あの…詩さんが真剣に見てるのは
分かってるんすけど…
少し離れてやってくれませんか?」
宏くんの声にハッとする
少しでも早く習得したくて
ジロジロ見過ぎてた!?
しかも近づきすぎたらやり辛いよね
失敗失敗!!
慌てて手を合わせてごめんねのポーズを
2人に見せて見つめると
何故か2人の顔が真っ赤っかに…
しかもふいっと顔を背けられてしまった
え、怒らせた!?
顔を真っ赤にするほど怒ってるの!?
あ〜!どどどうしよう〜!!
助けを求めるように隣の宏くんに
目を向けると宏くんにまで
逸らされる始末
のめり込むと周りが見えなくなるから
3人を不快にさせたのかも…
慌ててノートを取り出して
謝罪を書き込んだ
≪ごめんね!近付き過ぎて
鬱陶しかったよね?
次から気を付けるようにするから≫
ノートを見せると今度は3人が慌てだした
「あ、いや、違うんす!
ただ、恥ずかしくて…」
「そうっす!
詩さんに鬱陶しいなんて
思うわけないじゃないっすか!」
凛くんと幸くんが返事してくれたんだけど
恥ずかしいって何?
どの部分に恥ずかしいという要素が?
答えを求めるように
隣の宏くんに目を向ける
「俺らは怒ってもないですし
鬱陶しいなんて事も思ってないっすよ。
ただ可愛らしい詩さんに
照れてしまっただけっすよ」
頬をぽりぽり掻きながら話す宏くんに
安堵の気持ちが胸に広がる
というか、可愛らしいって私のどこが?
小学生や中学生に間違われるような
子供みたいな私が?
ないない!あり得ないよ!
でもまぁ、お世辞でも褒めて貰えるのは
嬉しいかな
≪気を遣わせてごめんね。
お世辞でも嬉しいよ!
ありがとう!≫
お礼の言葉を書いて見せると
3人から盛大な溜め息をつかれ
更には呆れたような眼差しで見つめられた
な、なんで?
首を傾げて考える私に
この人完全に無自覚だ、と
思われていたことを私は知らなかった
そんなこんなで毎日実践を兼ねて
3人から教えて貰って
怪我の処置の仕方を覚えた私は
抗争を目前に控え、緊張していた
凛、幸、宏side
俺達3人は詩さんの護衛を兼ねて
毎日昼休みの時間を過ごした
抗争を控えた星竜の為に
自分に出来る精一杯のことをしたい、
みんなの役に立ちたいと
一生懸命取り組もうとする詩さんを見て
この人が姫で良かったと
改めて思っていた
抗争を迎えるまで俺達下っ端は
力をつける為毎日厳しい訓練を重ね
身体はクタクタだけど
心は今までにない程満たされている
訓練の後に詩さんからの温かい食事や
抗争前の俺達のピリピリした雰囲気を
笑顔や優しい言葉で和らげてくれるから
ナンバー1の座と詩さんを守りたいと
強く思える
詩さんが役に立ちたいと思ってくれるように
俺達も星竜の為に、姫の為に
役に立ちたいと思う
必ず貴方を守ってみせますからね!
詩side
北星の島田さんが学校に現れてから
1週間が経ち、ついに星竜の元に
1通のメールが届いたのは
いつものように下っ端のみんなと
鬼ごっこやゲームをして遊び疲れ
幹部室でひと息ついていた時だった
パソコンの画面に釘付けになっている
奏から、その内容が伝えられた
「明日の夜19時にここへ来るみたいだよ。
それから…」
言葉を突然切った奏は私に視線を移してから
北斗に視線を移し、爆弾を落っことした
「北星が勝ったときは…
詩ちゃんをいただく、だそうだよ」
…………へ?
私をいただく!?
私、食べられちゃうの!?
絶対嫌だぁ〜!!!
拒絶の意を込めて頭をフルフル振った
そんな私を落ち着かせてくれたのは北斗
「俺達は絶対に負けねぇから安心しろ。
それに…詩は俺らの大切な姫だ。
簡単に手放したりなんかしねぇよ」
星竜がどれだけ強いのか、私は知らない
だけど、不思議と北斗の言葉は
私を安心させてくれるし
信じられるんだよ
それに、他のみんなだって沢山
訓練頑張ってたのを私は知ってるもん
だから私はみんなを、星竜を信じる!
≪私、みんなを信じてる!
この1週間、みんなが沢山訓練して
頑張ってきてたの知ってるもん!
本当は怪我なんてして欲しくないけど
避けて通れない道だって分かってるから
私は私の出来る事でみんなを守るから≫
笑顔でノートを見せると
北斗達に笑顔が溢れて
私もまた笑顔を返した
「姫にこれだけ応援されたら
頑張るしかないよね」
「おうよ!絶対負けねぇ!
詩は俺らの大切な姫だからな!」
「そうだよ〜!僕たちには
強〜い味方の詩ちゃんがいるもん!
絶対勝つからね!」
「…負けない」
奏、錬、奈留、冬の言葉に
胸が震えた
目の奥が熱くて溢れそうになる涙を
頑張って抑え、笑顔で頷く
北斗に抱き抱えて貰いながら
幹部室を出た私達は明日に備えて
1階に溜まるみんなの元へと降りた
ざわざわしていたのがピタリと止んで
総長である北斗の言葉を待つ
シーンッとする倉庫に北斗の
低く落ち着いた声が響いた
「明日の19時、北星との抗争が始まる。
この1週間、訓練してきたことを
存分に発揮しろ。
それから、向こうからふざけた
メールが届いた。
北星が勝ったときは…詩をいただくと。
だが、俺達は絶対負けねぇ。
明日はそんなふざけたメールを寄越したことを後悔させるぞ!
明日に備えてしっかり身体休めとけよ。
以上だ、解散!」
「「「うおおおおお!!!!」」」
北斗の言葉で星竜のみんなが更に
ひとつになって気がした
いつものように倉庫に寝泊まりするみんなに
食事を用意して楽しく過ごした
明日には抗争が始まるのに
倉庫内は笑顔で溢れてて温かい
それだけで私の不安は心から消えたんだ!
明日の抗争が終わったら
またこうして笑顔で過ごしたいな!
片付けを凛くん達と終えてから
私は明日に備えて準備した
沢山の救護セットを1階の備品室に
置いて、これをなるべく使うことが
ないように祈りながら
北斗の居る総長室へと向かった
ーコンコン
ノックしてから扉を開けると
ベットのヘッドボードに背を預け
雑誌を読んでいた北斗に近付いた
私に気が付いた北斗においで、と呼ばれ
大きなベットによじ登る
ベットの上で胡座をかいた北斗は
膝の上に乗せて私をギュッと抱きしめた
「明日は詩にとって怖い思いをする
出来事が目の前で起こる。
俺達も無傷では済まないが、それでも
必ず勝つから…
笑顔で迎えてくれな」
北斗の胸から鳴る音に耳を傾けて
私は頷いた
腕を緩めた北斗の優しい眼差しに
見つめられてドキッとした
あれ?
いつもの見慣れた光景なのに
心臓がトクトクと早鐘を打って
身体中が熱くて、なんだか変だよ…
私、どうしちゃったんだろ?
首を傾げて考える私のおでこに
一瞬、柔らかいものが触れた
それが北斗の唇だと分かるのに
数秒かかった
え?今の、なに?
おでこを押さえて
真っ赤になっているであろう私の
顔を見て北斗は意地悪な笑みを浮かべ
「顔、真っ赤だぞ」
と、ニヤついた
もうっ!なんて事するの!
怒りながらポカポカと北斗の胸を
叩きながらも不思議と嫌じゃなかったことに
驚きながら、恥ずかしくて
私はプイッと顔を逸らせて膝から降りて
布団を頭から被った
鳴り止まない心臓の音を感じながら
私はそのまま深い眠りについた
北斗side
くくくっ…面白しろすぎだ
明日の事で不安だろうと思って
気持ちをほぐしてやろうかと
軽くおでこにキスをしたら
顔真っ赤にして…
恥ずかしいのか布団を頭から被って
ふて寝する始末だ
クソッ!可愛すぎだっつの!!
正直予想外の反応で
可愛すぎて抱きしめそうになったが
今はまだやめておいてやるよ
未だ、布団を被ってミノムシ状態の詩に
目を向けて、心の中で呟く
北星との抗争が無事終わったら
俺の気持ちを伝えるか…
その時、詩はどんな反応すんだろうな
鈍感無自覚だから、首を傾げるか
大きな瞳を目一杯広げて驚くか
小さな口を大きく開けてポカンとするか
それとも…
さっきみたいに顔を真っ赤にするか
今からすげぇ楽しみだ
自然と笑顔になれる自分に驚く
今まで俺という人間を暴走族の総長か
俺の家柄、見た目だけでしか
見て貰えなかった俺を
仲間以外で初めて
俺、流川北斗という1人の人間として
見てくれたのは、詩だ
それは俺だけが例外じゃなくて
奏や錬、奈留や冬、星竜の奴等も
口にはしないが詩を特別な存在として
見てる
けど、誰にも渡したくねぇんだ
初めて好きになった女だから…
守りたいと思ったのも
笑顔を1番に見せて欲しいと思うのも
隣にいて欲しいと思うのも
詩、お前だけ…
スースーと寝息を立てて眠る
この小さくて、でも大きな存在の
詩を俺だけのものにしたい…
静かに眠る詩の布団をめくって
そっと後ろから抱き締めて
この温もりをいつも傍で感じられる
存在になりたいと願って
夢の世界に浸った…
詩side
カーテンの隙間から見える光に照らされて
目を覚ました私
ん〜…よく寝たぁ〜
今何時だろう?
携帯で時間を確認しようと
身体を起こそうとして気が付いた…
なんか、重いぃ〜!!
身体になにかが乗っかってるみたいな…
なんなの、一体!!
唯一動かせる頭をクルリと動かすと…
ええええええ!?
なんで?なんで〜!?
北斗の綺麗なお顔が間近にぃ〜!?
目線を下に向けると私の身体を
抱き締めるようにスヤスヤと眠る北斗
相変わらず綺麗なお顔だなぁ…
閉じられた瞼を縁取るまつげは長く
スーッと高い鼻梁に薄い唇
真っ黒でサラサラな髪…
って違〜う!!
重い原因はこれかぁ!!
うぅ〜ん!!動かない〜!!
北斗の腕から脱出を試みようともがいても
ビクともしない!
本当だったら大声で叫んで
起こせるんだろうけど
私にそれは不可能だ
むぅ…どうやって起こそうか?
ん?
あっ、そうかそうか…
声を出せなくてもあるじゃんか!!
唯一の方法が!!
怒られるかもしれないけど
この状態は非常に心臓に悪いんだよぉ〜
私だって一応女の子だもん!
ドキドキくらいは…するもん
心臓が完全に停止する前にやらねば!
えいっ!!
ーゴンッ
い、痛い〜!!!
痛がる私の背後から呻き声…
「…う、痛ぇ」
寝起きで掠れた声が聞こえたので
そろーっと後ろを振り返ると
おでこを押さえてこちらを睨む
我らが総長、北斗様!!
「詩…朝から何しやがる」
あの〜…はい、私の後頭部で
頭突きをしましたぁ〜!!
だってだって〜!!
手も足も使えない、声も出せない私が
起こせる方法はただひとつ…
唯一動かせる頭で起こすことなんだもん!
私悪くないよね!?
未だに後頭部が痛くて涙目の私は
視線だけで離して下さいと懇願してみる
すると、さっきまで睨みをきかせて
私を見ていた北斗は顔を真っ赤にして
更に身体を密着させてぎゅうぎゅうと
締め付けてきた
「あぁ〜、マジで可愛すぎだろ!」
か、かかか可愛い!?
何寝惚けた事言ってるの〜!!
私が可愛いなんてそんな事あるかぁ〜!!
この天然タラシめ〜!!
治まりかけていたはずの心臓が
胸から飛び出すんじゃない!?ってくらい
ドキドキ、バクバクしてるんですけど!!
…って
ち、違〜う!!
離れて〜!!
ジタバタして身をよじる私の耳元で
低く掠れた声を出す北斗の言葉に
私は石のように固まった
「もうちょい、このままでいさせろ。
離したくねぇ…」
北斗?
私を抱き締める腕はそのままで
首筋に顔を埋める北斗は
いつもの俺様で強引で
みんなのトップに立つ総長の北斗じゃなくて
ただの流川北斗という男の子で
なんだか少し、甘えん坊…
いつもの北斗じゃない気がして
私はドキドキする胸の音を感じながら
北斗の言葉のままに
北斗の腕が離されるまでジッとしていた
今日の抗争で不安に思うことがあるのかもしれないと思ったから…
常にみんなのトップに立つ責任とか
重圧とか、私には分からない何かが
北斗にはあって
甘えたりしたいのかもしれない
強い人は弱い人を守るけど
じゃあその強い人は誰が守るの?
弱音や愚痴、不安に思う事を
吐き出すことが北斗には出来ないの?
もしそうなら、私が
そうさせてあげられる存在になりたい…
私よりも遥かに強いこの人を
守りたい…
おこがましいと言われるかもだけど
それでも、いつも私に安心を与えてくれる
優しい北斗に何かしてあげたいって
そう思ったの
今だけはこのままで居てあげたいって…
背中から伝わる北斗の心音を感じながら
少しでも北斗の心が休まりますようにと
私はそっと目を閉じた…