詩side
下っ端さんの1人が恐る恐る声を上げる
「あの…総長、そちらは
どなたなんでしょうか?」
それを聞いた北斗は…
「これから報告がある。
集まれる奴は全て集めろ。
話はそれからだ、集まり次第声を掛けろ」
「了解しました!」
北斗の言葉に下っ端さん達はキビキビと
動き始めて、倉庫内は活気に満ちてる
すごい…
私は北斗に抱えられたまま
ある部屋に入ったんだけど…
一人暮らしの私のアパートよりも
大きくて家具とかも私の物より
断然多いなんて!
開いた口が塞がらないとは
正にこの事だと思った
それぞれがみんなソファーに
腰を下ろす中…
何故か私は北斗の膝の上
他にも沢山空いてるのに、なんで?
ノートに疑問を書いて北斗に見せる
≪北斗、他にも座れるソファーあるから
降りるね?
私がここに座ってたら北斗の足が
痺れちゃうから!
降りてもいい?≫
そしたら、ものすっごく眉間に皺が!!
なんで〜!?
怒らせるようなこと書いたかなぁ?
何度見ても怒らせる要素はない…と思う
首を傾げながら考えていると
ノートを覗き込んできたのは奏
クスクス笑いながら
私の耳に手を当てて答えを教えてくれた
「北斗はね、詩ちゃんと離れたくないんだよ
こう見えて寂しがりの甘えただから」
うそ〜!?北斗が??
でも、人って表に出してる部分だけが
全てじゃない
外に出せない部分も沢山あって
その全部で1人の人間だもの
みんなだって
きっと外に出せない部分がある
それを自分の中にしまい込んでるのかもしれない
それを無理矢理こじ開けることは
私は絶対にしない
みんなが出したいと思える、その時まで
私は待つ…
そしてそれを見せてくれた時は
真剣に向き合い、寄り添いたい
受け止めるだけの力があるかは
分からないけど
その時の私の精一杯で接しようって思う
そういえば、ここは何のお部屋?
≪ここは何をする為のお部屋なの?≫
疑問をノートに綴り北斗に見せる
「ここは幹部室って言って
俺達幹部以上の人間しか入れない部屋で
倉庫に来たら大半はここで過ごす」
へぇ〜幹部室って言うのか…
大半を過ごすから家具が沢山あるんだね
ここでみんなは放課後過ごしてるのかぁ
なんだか秘密基地みたい!
ふふふって笑ったら
みんながキョトンと首を傾げてる
いきなり笑ってコイツきもいとか
思われた!?
いや、実際きもいかも!!
私は慌ててノートに書いて見せた
≪ここはなんだか秘密基地みたいだなって
思ったの!
そしたら、すっごくワクワクしちゃって≫
錬と奈留は
「「なるほど〜!その通りかも(ね)!」」
と声をハモらせて
それを聞いた冬は小さく頷いた
奏にはクスクス笑わられてしまって
なんだか恥ずかしい〜!
子供の発想って思われたかも…
うぅ〜…
北斗なんて声には出してないけど
肩を震わせてるし!!
声に出してなくても膝に乗ってるんだから
振動で笑ってるって伝わってるんだからね!
むぅ〜!いいもん!
私は心も身体もちっこいの!
そんなの言われなくても
知ってるもん!
ふんだっ!!
頬を膨らませてプイっと顔を背けた
そのあと、みんなからはごめんねの
謝罪を有り難く…いや!仕方なく
頂戴しました
ーコンコン
ん?誰か来た?
扉を開けて顔を覗かせたのは
さっき北斗に質問してきた下っ端さんだ
錬の黒色バージョン〜!
バチッと目が合ったから
笑顔でお辞儀したんだけど…
お顔がすっごく赤くて口をパクパクさせて
固まってる
どうしたのかなぁ?
首を傾げながら考えていると…
「全員揃ったのか」
と、北斗の声
それによって彼は金縛り?から解けて
「全員揃いました!
よろしくお願いします!」
と、お辞儀して部屋を出て行った
それと同時に北斗の膝の上から降りて
手を引かれながら幹部室を出た
私の目の前…というか一階部分に
満員電車かっ!と突っ込みを入れたくなるくらいのカラフルな頭の人だらけで…
すっごくびっくりしちゃった!
幹部室に居たのはものの数十分…
その間にこれだけの人が集められるなんて
お目めが落ちるくらいびっくりだよ!
しかもその沢山の人達が全員二階にいる
私達…というよりは
北斗達を見てる
その目には、尊敬や憧れ、信頼が
映し出されていて
改めて北斗達がみんなにとって
すごい人達なんだって分かった
なんだかそれを嬉しいと思う私は
おかしいかな?
まだ出逢って数日の私…
かたや、ここに居る人達は
長い時間と日々を過ごしてきてる
それは変えようのない事実だけど
私は思うの
ここに居る全ての人達が思うように
私もみんなを誇りに思うって…
そしてみんなをキラキラした目で
見つめる全ての人達も!
みんなが誇りに思う仲間
みんなを誇りに思う仲間
そんな星竜のみんなと
私も仲間になりたい!
詩side
ここにいる全ての人達に私という人間を
知って貰って、姫になる事を認めて
貰わなければいけない
だけど…
私は喋ることが出来ない
物心ついた頃から、それが当たり前で
だけど
声が出せないこと…
喋ることが出来ないこと…
相手に気持ちを伝えることが出来ないこと…
みんなに出来て私に出来ないことが
すごく悲しくて辛くて
ものすごく悔しかった
何度も何度も繰り返し声を
出したくて、でも出来なくて
そうするうちに…
私は喋る事を諦めたんだ
だけど…
その時の私は諦めたんじゃなくて
辛くて悲しい現実から目を背けて
逃げたんだ
受け止めきれない現実から…
それがあの時の私には最善だった
だけど今は?
喋れないから、話せないからって
また諦めて逃げるの?
私の目の前にいる沢山の人達から
そして、私が必要だと言ってくれた
北斗達みんなから逃げるの?
向き合う、寄り添おうって
決めたのは私自身なのに?
守るねってみんなで
指切りげんまんしたのに?
絡めた小指を見つめて両手で包んだ
ーその時
北斗の声が倉庫に響いた
「今日はお前らに報告があって
招集をかけた。
姫になる奴を紹介する為だ。
詩、挨拶いけるか」
北斗を見上げて傍に居てくれる
みんなを見つめて…
そして倉庫にいる沢山の人達に
目を向けた
胸に抱きしめたままのノートとペン
私にとって相棒みたいな大切な物に
視線をおとす
その時、園長先生と律から
言われた言葉を思い出した
“詩は詩のままでいいの、それが1番大切”
そう言ってくれたじゃない!
北斗達に笑顔で大きく頷いて
私は階段を駆け下りた
二階からみんなが心配そうに
名前を呼んでくれたから
心配掛けてるのに嬉しくなって
ノートいっぱいに
≪大丈夫≫
と書き記して見せた
そしたら、みんなが笑ってくれて
また嬉しくなった
私にはみんなが居てくれる
あの頃みたいに1人じゃないんだもん!
だから逃げずに進むんだ!
一階に居る沢山の人達は
私とみんなとのやり取りをポカンと見てて
頭の中にハテナマークを浮かべてる
そりゃそうだよね〜
だって、まさか喋れないなんて
普通は思わないし考えもしないもの
だけど、それが私だから…
ーカキカキカキ
ーカキカキカキ
ふぅ〜…
書きすぎで手が痺れちゃった〜
私のこと、そして姫になりたいこと
姫になったらしたいことを
今の私の想いを込めてノートに綴り
錬の黒色バージョンの下っ端くんに
手渡した
もちろん、みんなに回してねの
ジェスチャーも忘れずに!
≪初めまして、星川詩です。
私はこの通り喋ることが出来ないの。
だからノートに書く事でしか
伝えられない。
ごめんなさい。
北斗をはじめ、錬や奏
奈留や冬とお友達になってすぐに
姫になって欲しいって言われたの。
みんなには話したけど
暴走族っていうものが何なのか
今の私にはまだ正直よく分からないけど
心に決めた事がある。
喋れない、喧嘩も出来ない私だけど
みんなを守るって。
みんながいつでも笑顔で居られるように
苦しい事や悲しい事があったら
誰より近くで向き合って寄り添おうって。
世間の人がなんて言おうとも
私は絶対に味方になるって。
私のモットーは
自分の目で見て感じたものだけを
信じること!
外側ばかりに目を向けて
内側を知ろうともしない人は
私は絶対に認めない!
周りの人がどう思うかなんて私には
関係ないの。
私は自分の目で見て感じたものだけを
大切にしたいの。
みんなを傷付ける人達から
守りたい!
もちろん守るのはみんなの心をだよ?
みんなの心の盾になりたいの!
私は星竜のみんなと仲間になりたい!
よろしくお願いします。
星川詩≫
すごい量書いたのに
ノートの回る速さが半端ない!
あれれ?
もうスタート地点の
錬の黒色バージョンくんに
返ってきた〜!!
真っ直ぐに見つめる瞳から目が逸らせない
私の想いはみんなに伝わった?
どうだろう?
錬の黒色バージョンくんは
私に笑顔を向け、そして…
二階にいるみんなへと視線を上げた
「総長!俺らは全員、満場一致で
詩さんに姫になって欲しいです!」
それを聞いた他の人達からも…
「「「大賛成です!!!」」」
「「「詩さん、最高っす!!!」」」
と倉庫が揺れるくらいの大声で叫び
認めてくれました!!
よ、良かったぁ〜
緊張が切れてその場に座り込んでしまった私を抱き抱えてくれたのは、北斗
それを囲むように傍に来てくれたみんな
それぞれに笑顔で大きく頷いた
「よくやった、詩。
今日から正式に星竜の姫…星姫(せいき)だ」
笑顔で頷く
そして…
少しだけ笑みを浮かべた北斗からの
締めの挨拶はこう締め括られた
「お前ら、認めてくれたこと感謝する。
俺らの星姫…星川詩だ。
何がなんでも守り抜け!」
「「「死ぬ気で守ります!!!」」」
えぇ〜!?ダメダメ!!
死ぬ気でとかダメダメ〜!!
ここにいる誰1人欠けることは
許しませんよ!!
私の為にだとしても、それはダメ!!
今までで最速のスピードで
ノートへ綴る
≪死ぬ気で守るなんてダメだよ!!
ここにいるみんな、誰にも危険な目に
あって欲しくないの!≫
そして錬の黒色バージョンくんに
渡す
それを見た彼は眉を下げて
「姫、それは無理ですよ!
姫は守られる存在なんです。
だから姫が危険と判断したら
ここにいる奴らは…」
彼の言葉を遮って両手でバツを作る
なのに、聞く耳を持ってくれない!
ムムム〜…
私が危険と判断したらって言ったよね?
言ったよね?ね?
だったら答えは簡単じゃない!
危険な状況にならなければいいって
ことでしょう?
黒髪くんからノートを引ったくり
最速で書いてまた渡す
≪危険な状況にならないように
姫の重要注意事項を徹底するから!
みんなが私を大切に思ってくれるように
私もみんなが大切なの。
だから、死ぬ気でなんて簡単に
言っちゃダメ!!≫
読み終えたであろう彼に
頬を膨らませ両手でバツを作り
ダメダメアピール!!
私の猛抗議に渋々折れてくれた彼は
「では、万が一にもそうなった場合のみ
死なない程度に守ります。
これでもかなりの譲歩なんですよ!
これ以上は譲れません!」
と奈留みたいにぷりぷりと
お怒りモードに突入しちゃいました
これ以上続けても終わりが見えないので
心の広〜い私が頷くことで
無事終息しましたっ!!
今日ここに
“星竜の姫 星姫”が誕生した…
下っ端side
俺は下っ端の奴らを引っ張る立場にいる
幹部以上の皆さんから下への連絡や
報告、指示出しなども行う立場にある
要は下っ端のまとめ役だ
そして今日もいつものように
1日を終えると思っていた…
だけど、転機は突然訪れた
倉庫でバイクのメンテナンスを終え
ひと息つこうとした矢先
総長達がやって来た…が
総長の片腕に抱えられて
1人の女の子が入ってきたのだ
金髪碧眼の可愛い女の子は
子供のように目をキラキラさせて
倉庫をキョロキョロと見回している
総長の腕の中に居るということは
彼女…という事でいいのだろうか?
とりあえずここはまとめ役の
俺が聞くしかないよな
「あの…総長、そちらは
どなたなんでしょうか?」
俺の問い掛けに返ってきたのは
「これから報告がある。
集まれる奴は全て集めろ。
話はそれからだ、集まり次第声を掛けろ」
との指示だった
この展開は間違いなく姫のお披露目で
間違いない
「了解しました!」
そこからは止まらぬ速さで下に指示を出し
星竜に属する全ての下っ端に
緊急招集をかけた
そして一階に全ての下っ端を整列させた
ところで、総長達が女の子の手を引き
階段の踊り場で足を止めた
そこで見たのは初めて見る
総長や幹部の皆さんの優しい表情
今までは女には目もくれず
一言で言えば“冷酷”…
だったのに、この女の子には
温度のある表情を浮かべている
すごい女の子がやって来たと思った
その時倉庫に総長の声が響く
「今日はお前らに報告があって
招集をかけた。
姫になる奴を紹介する為だ。
詩、挨拶いけるか」
総長の言葉に少し緊張しているのが
遠目でも分かる
そりゃそうだよな…
あんなか弱そうな女の子が
大勢の男に囲まれて平気で居られる方が
おかしい…のに…
次の瞬間、女の子は階段を駆け下りてきて
ノートに一心不乱に何か書いてる
一体なんなんだ?
そして、渡されたノートに目を通した俺は
顔には出さないがかなり驚いた
その内容にも、彼女がノートを
使わなくてはならない理由にも…
≪初めまして、星川詩です。
私はこの通り喋ることが出来ないの。
だからノートに書く事でしか
伝えられない。
ごめんなさい。
北斗をはじめ、錬や奏
奈留や冬とお友達になってすぐに
姫になって欲しいって言われたの。
みんなには話したけど
暴走族っていうものが何なのか
今の私にはまだ正直よく分からないけど
心に決めた事がある。
喋れない、喧嘩も出来ない私だけど
みんなを守るって。
みんながいつでも笑顔で居られるように
苦しい事や悲しい事があったら
誰より近くで向き合って寄り添おうって。
世間の人がなんて言おうとも
私は絶対に味方になるって。
私のモットーは
自分の目で見て感じたものだけを
信じること!
外側ばかりに目を向けて
内側を知ろうともしない人は
私は絶対に認めない!
周りの人がどう思うかなんて私には
関係ないの。
私は自分の目で見て感じたものだけを
大切にしたいの。
みんなを傷付ける人達から
守りたい!
もちろん守るのはみんなの心をだよ?
みんなの心の盾になりたいの!
私は星竜のみんなと仲間になりたい!
よろしくお願いします。
星川詩≫
こんなに小さな身体の彼女、詩さんは
俺らの心の盾になりたい
仲間になりたいと言ってくれた
守られて当然だと思っている
女しかいない、そう思っていた
俺らは星竜という名のブランドで
その星竜をアクセサリー扱いする
女しか見て来なかった
けど、詩さんは違う
か弱そうな見た目とは真逆で
強く芯のある人だ
詩さんだから星竜の姫…
星姫に相応しい
いや、詩さんになって欲しいと
俺を含めた奴らは思ってる
心の盾になると言ってくれた詩さん
なら俺たちは詩さん自身を守る
盾になると決めた
「総長!俺らは全員、満場一致で
詩さんに姫になって欲しいです!」
それが俺たち下っ端が出した答え
そして死ぬ気で守ると宣言すると
両手でバツを作り怒る詩さんと
譲れない俺たち下っ端で
小競り合いを繰り返して
お互いに納得する方法で決着した
詩さんはなかなかに手強い
でもこんなやり取りも楽しいと
思えるのは詩さんだからだ
本当にすごい人がやってきた
今日、星竜の姫…星姫が誕生した
これからが楽しみです、詩さん
詩side
星竜の星姫になってあっという間に
2週間が過ぎました〜
楽しければ楽しいほど
時間の流れを早いと感じる今日この頃です!
放課後の今、倉庫に行く前に寄る所が
あってね〜
楽しくお話しながら歩いてます!
内容はほとんどバイクの話か族の話…
「錬さん、今度新しいパーツ出るみたいっすよ!」
「おぅ!まじで?次のメンテナンスで
パーツ替えすっかなぁ〜!
お前も俺と同じ車種だし、おそろで
替えようぜぇ〜」
「はい!是非!」
でも私の知らない世界を教えてくれるから
すっごく嬉しいし、楽しいのっ!
ちなみに今日のメンバーは…
錬と冬、それから下っ端3名の計5人
学校と倉庫の中間くらいの場所にある
大型スーパーに来てま〜す!
柴崎凛(しばさきりん)くん、通称凛くんと
江川幸太(えがわこうた)くん、通称幸くん
田中宏人(たなかひろと)くん、通称宏くん
下っ端の3人はまだ中学3年生なんだけど
すっごく大きいんだよ!
成長がストップした私としては
羨ましい限りです…トホホ
みんな180センチ位だから
会話しているのを下から見上げないと
いけないから首が悲鳴を上げてるの!
この2週間ずっとだよ!?
そりゃ首もゴリゴリになるはずだよ…
首を摩りながら歩いている私に神の声が!
「見上げてばっかで疲れたんか?詩。
抱っこしてやろうか?」
金髪モヒカンの錬様です!
笑顔で大きく頷くと、片手に抱き上げて
くれました〜!
みんなと同じ視線になれて首も楽になり
私は超ハッピー!ふふふ〜!
そんな気分上々の私をドン底へ
突き落とすお言葉…それは…
「北斗にバレたら八つ裂きにされちまう。
この事はここだけの秘密だからな!」
「…(コク)」
苦笑する錬と頷く冬
そして青ざめて言葉を失い
互いを抱きしめ合う3人…
≪大型犬が震えるの図≫
そうなる理由はただひとつ…
何故か北斗以外の人が抱き上げるのは
星竜ではタブーなんだって!
とにかく北斗がブチギレるらしいの…
なんで北斗はよくて、他はダメなの?
私がなんで?と何度聞いても
駄目だと一蹴する北斗
そのバトルがこの2週間ずっとです…
納得出来る内容なら私もきちんと
聞くのにさぁ〜
何も言わず、ただ駄目の一言なんだもん!
頬を膨らませて納得出来ないアピール
そんな私に苦笑する5人
「(誰にも触れさせたくないっていう
独占欲の表れ…ひいては惚れてるから
なんだけど、気付いてないよな〜
この姫は…北斗の気持ちに)」
と、ぷりぷり怒る私を見て、5人は
心の中で思っていたのでした…
スーパーに到着した私達は
大量のかごに食材やら飲み物を
ポイポイ放り込む
適当に放り込んでるんじゃないよ?
私が作成したお買い物リストに沿って
入れてます!
星姫として、私として
みんなに出来ることを考えてみた結果が
コレなの!
名付けて【同じ釜の飯を食べる!】
だから、毎日ローテーションで
買い出しに来てるの!
倉庫で寝泊まりするみんなのご飯の為にね!
同じ釜の飯なんて…と
古臭いって思ったそこの人!
ノンノンノンッ!!
同じ物を食べて同じ時間を過ごすのって
すっごく大事なんだよ?
そういうのを共有し合うのは
お互いがお互いを知り理解する上で
すっごく大事…
そうする事で互いに支え合って
足りないものを補い合うことができるし
協力出来るから、向かうとこ敵なしなの!
コミュニケーションのひとつとも
言えるけど、私の考えはね〜
それは仲間を知ることだって思った
星竜は元々仲良しで優しい人達の集まり
温かい場所なんだけど…
それ故、仲間を想って心の中を
全て曝け出さないようにしてる
心配掛けたくない…
迷惑掛けたくない…
同情されたくない…
そして周りもそこに敢えて
踏み込まないようにしてるの
優しいから…
負ってしまった傷をこれ以上
深くしないようにって…
だから仲良しだけど、仲間内にも
知らないうちに、うっすら線を引いてる
私もそこにズカズカと足を踏み込むなんて
デリカシーのかけらもないことは
しないよ?
だけど、自分のことを知っていてくれる
人が1人でも多くいたら
これほど心強いものはないでしょ?
その1人に私はなりたいの
辛いことは辛い、悲しいことは悲しいと
吐き出せる場所でありたい
そのためにもうひとつ私がしたこと…
それは星竜全ての仲間の顔と
名前を覚えること!
大きな括りでは下っ端って言われてるけど
1人1人きちんと名前があるんだよ?
下っ端が名前じゃないの
みんなの心の盾になる為には
1人1人をきちんと見なくちゃって思って
この2週間で覚えたけど…
なにせ人数が半端なかったよ!
200人だよ!?
全部を覚えた頃には
頭から湯気が出てるんじゃ!?って
思うくらいだったんだよ〜
詩、頑張りました!
でもね、みんなの抱えるものに
比べれば、そんな事全然苦に思わなかった
不思議なことにね!
姿形がそれぞれ違うように
抱えるものも1人1人違う
だから…
誰か1人でも寄り添ってくれる人がいる…
そう思える人がいるだけで
心が安らいで
荒れ狂う波を静めてくれる
私にとって園長先生がそうだったように
星竜のみんなにとっては私が
そういう姫でありたいって思ったんだ!
みんなの心の盾になれる姫…
そして私は私らしく自然体で!!
星姫として、私として出来ることを
ひとつずつ増やしていきたい
それが星姫としての誇りで
存在意義だと思うから…
幹部side
詩が星姫になって2週間が経った
姫として認められてから
詩は倉庫で寝泊まりする奴らに
飯の用意をしてくれる
寝泊まりの理由はみんなそれぞれだ
家族が居ない者、見捨てられた者
逆に見捨てた者…
みんな何かしらを抱えていて
家庭の味に飢えてるところがある
だから、詩がご飯を作ると
言い出した時は驚きと喜びの半々
買い出しに任命された錬と奏
下っ端数十人を従えて出て行って
戻って来たと思ったら
ものすごい勢いで手際良く大量の
おかずをテーブルに並べた
その品数、なんと数十種類で
量も半端なかった
しかもおかわりまであるときた!
二階から一階へ続く階段の踊り場から
幹部全員で観察だ
詩は自分のことを一切話さない
聞いたら答えてくれるんだろうが
それで詩から今、俺達に向けてくれる
笑顔を見せてくれなくなったらと思うと
聞けないでいるんだ…
ってか、それにしても手際がいい
コンロの火加減を見てるかと思ったら
次の瞬間には野菜や肉を切って
下ごしらえをして
あんな小さな身体でちょこちょこと
動く姿は小動物そのものだ
可愛すぎると、ここにいる全員が
思ってるだろう…
錬は頭の後ろで腕を組みながら言う
「あの手際の良さは最早料理の達人だな」
奈留は目をキラキラさせて
「本当にすごいね〜!
それにどれも美味しそう〜!」
子供な発言をかます
「誰かの手作りのご飯なんて
いつ振りだろう…」
どこか懐かしそうに切ない目で
詩を見つめる奏
「…(コク)」
冬は黙って頷くだけだけど…
奏の言うように誰かが作る温かい料理を
食べるなんて、いつ振りだろうな…
思い出せない程、遠い昔のような
気がする
みんなそれぞれ思うところがあるけど
今は下で料理を作ってくれてる詩に
釘付けだ
可愛くて、優しくて、純粋で、真っ直ぐ
他人の為に心を尽くす姿は
俺達の目も心も惹きつけて止まない
そして何より笑顔が一番だ
あの笑顔があるから
俺達は守りたいと思うし
強くなりたいと思えるんだろうな…
今までだって強くなるための努力は
十分やってきたと自負してるが
詩と出逢ってからの俺達は
更にその想いが強くなった気がする
俺達を照らし導いてくれる存在…
真綿で包まれるみたいな安心感…
元々俺達星竜は仲が良くて
抗争以外はみんな幹部も下っ端も
関係ないような間柄だが
詩という存在が星竜を更に絆の固い
族へと変化させている
詩…俺は、俺達は
お前との出逢いに感謝してる
ふと視線を上げた詩は俺達に向けて
手で丸を作って笑った
料理が完成したようだ
ありがとな、詩
詩side
買い出しが終わってみんなで手分けして
食材を片付けていた私
今日は何を作ろうかなぁ〜なんて
呑気に考えにふけっていると…
二階から奈留の声が聞こえた
「詩ちゃ〜ん!話があるから
幹部室に集合だよ〜!」
冷蔵庫に頭を突っ込んでいた私は
慌ててドアに頭をぶつけてしまい
痛みを分散させる為ぴょんぴょん跳ねる
痛すぎて涙が出てきたよ〜
うぅ…本当に痛い〜
頭を押さえ涙目の私は
お片付けを他のみんなにお願いして
幹部室へダッシュ〜!
そんな私を頬を染めて見つめる奈留
どしたの?
首を傾げて見上げると…
「何をしても可愛いって罪だよね…」
と何やら小さな声でぶつぶつ呟く奈留
私の頭上にはハテナが浮かぶ
声が小さくて聞こえない…
何言ってるのかなぁ、奈留は
トリップしていた奈留に押されて
幹部室に入るとみんな勢揃い!
そこにはいつもの見慣れた光景
大きな1人ソファーには北斗
パソコン前には奏
3人掛けソファーの上にはバイク雑誌に
夢中の錬
2人掛けソファーには奈留と冬
そして、私の定位置は何故か北斗の
お膝の上…
おかしくない?おかしいよね?
だって錬が寝転ばなけば
私はそこに座れるわけで…
なのに、私の椅子は北斗の膝の上!
納得出来ないけど仕方ないね〜
北斗は寂しがりの甘えたさんだから!
それにしても頭痛い…
頭を押さえたままの私
「どした、頭なんか押さえて」
北斗の不思議そうな声に私はノートに
綴る
≪食材を片付けてる途中で冷蔵庫の
扉に頭ぶつけちゃって…
すっごく痛いの!≫
ものすっごく痛いアピールをすると
みんなが揃いも揃ってあたふたしだした
みんな突然どうしたの?
ものすっごい慌てぶりなんだけど…
そして眉を下げながら氷袋を
持ってきてくれた奏
「今度からは気を付けてね?
詩ちゃんが怪我したらと思うと
心配で仕方ないよ…
たんこぶにならないといいんだけど」
すごく心配掛けちゃったな…
頭ぶつけただけで慌てるくらいだから
擦り傷、切り傷なんてしたら
卒倒しちゃいそうだな、奏
気を付けなきゃね!
≪ありがとう!
心配掛けちゃってごめんね?
今度から気を付ける!≫
ノートを見せて笑顔で頷くと
「うん、約束だよ?
傷という傷全てに気を付けてね。
詩ちゃんが怪我なんかしたら
僕、倒れる自信あるよ」
えぇ!?
思ってた通りの返答に
びっくりしちゃった!!
絶対に気を付けなければと
固く決意したのでした
あたふたしていた幹部室が静まり
落ち着いた時、頭上から北斗の声
「本当に気を付けてくれよ?
詩が怪我したりした日には
俺、どうなるか分かんねぇ…」
ほんの少し物騒な発言が聞こえたけど
幹部に触れないようにソッと後頭部を
撫でる手付きはとても優しい…
私を見つめる真っ黒な瞳が
心配だと言っているようで
申し訳ないんだけど、嬉しい…なんて
思っちゃったのは、秘密だ
私の手が冷えるからと頭上の
氷袋を代わりに支えてくれる北斗
過保護過ぎじゃない?って思ったけど
正直ずっと手を挙げ続けるのが
辛かったから助かった〜
で、お話があるんだよね?
空いた手でノートに書く
≪お話ってなぁに?≫
みんなに見せると
北斗から…
「星竜の姫、星姫お披露目暴走を
近々行う。
その暴走のルートはもう決めてあるが
祝い暴走を今から説明する、奏」
北斗の声に頷いた奏は
詳しく説明してくれた
「まず、姫お披露目暴走っていうのは
星竜の傘下にある同盟族と他の族に
知らしめる為の暴走で、基本的には
喧嘩はしない。
姫がいるからね。
ただ暴走の日、倉庫が手薄なのを狙って
潰しに来る族もいるんだ。
簡単に言えば、何が起きるか分からない…
手薄になったからといって
簡単に潰されるようなことはないけど。
下っ端も他の族の総長クラスと同等の
腕っぷしがあるからね。
ただ覚悟はしておいて欲しいんだ。
なにかが起きるかもしれないと…」
そう語る奏もみんなにも
いつもの優しい瞳は見えなくて
瞳の奥に炎のような熱さが見えて
奏の言う覚悟を持ってなきゃいけないんだって思った
これが暴走族の世界なんだ…
いつ狙われるか襲われるかを
常に考えておかなきゃいけないんだ
その世界に身を置くみんなが
すごく心配でありながらも
カッコイイって思っちゃう
1番であり続ける為に誇りを持って
戦おうとする強さを
尊敬するし、誇りに思う
そして、そんなみんなの姫が私…
覚悟は出来てるよ
私は頷いた
ピリッとした空気の中、場違いな程の
明るい声の主は…奈留
「暴走が終わったらね、倉庫で
パーティーがあるんだよ〜!
料理も沢山あるしね〜
みんなでゲームしたりするの!
すっごく楽しいよ〜!」
ニコニコ笑顔の奈留と
ニカッと歯を見せて笑う錬
無言だけど頷く冬
「後片付けも楽しみだよね〜」
楽しそうに笑う奏の笑顔は
いつもより、ちょびっとだけ
怖いと思ったことは秘密…
北斗は肩を揺らして笑ってるけど
他の2人…奈留と錬は
笑顔が超引き攣ってる!
きっと前に何かやらかしたんだね…
ご愁傷様…
兎にも角にも星姫お披露目暴走まで
あと数日…
何も起こらないで無事に終われたら
イイなぁ〜
詩side
お披露目暴走まであと数日…
何事もなく無事に終えられたら
イイなぁ〜
昼休みの教室で律とランチタイム中
私も律もお互いに自炊なんだよ〜!
だからお互いのお弁当を交換して
ちょっとした意見交換したりするの
もう少しこうしたら…とか
こうしたらもっと美味しくなるんじゃない?とかね
余程の事がない限りは休み時間という
時間全ては律と過ごしてるの
北斗達はそれを尊重してくれてるから
とても有り難い
そして改めて北斗達は優しいって思う
私の夢の女子高生ライフのひとつを
大切にしてくれてるのですっ!
だからこうして心から楽しめてるんだぁ〜
オシャレの話、料理の話、好きなTVの話
ガールズトークは止まらないのです〜
もう楽しくて嬉しくて!
全部筆談になるんだけど
律はそのままの私を受け入れてくれる
それがどれだけ私を幸せにしてくれてるか
言い表せない感謝の気持ちで
胸がいっぱいなの…
こんな素敵なお友達、私には
居なかったから…
少し過去にトリップしていた私は
律の声に引き戻される
「お披露目はいいけど…
暴走なんて、詩大丈夫なの?
すごく心配だわ…」
律には姫と認めて貰えた翌日に話したの
星竜の姫、星姫になったことをね!
その時もすっごく心配してくれて
今もまだ心配させちゃってるみたい…
でも守ってくれるって約束してくれたし
私も守るって約束したから!
安心して欲しくて私は笑顔で律を見る
≪ありがとう、心配してくれて!
でも大丈夫!
こう見えて私色んな修羅場を潜り抜けて
きた強者だよ〜?
だから、笑って応援して欲しいな!≫
「分かった、応援する。
でも、強者の詩が困った時は
いつでも話聞くからね?
友達なんだから…分かった?」
困った表情を浮かべながらも
笑って頭を撫でてくれる律は
私のお姉ちゃんみたい!
困った時は必ず話すね!
笑顔で私は頷いた
ーー暴走当日
ついにやって来ました!お披露目暴走!!
もう、今日は朝から落ち着かなくて
まるで遠足前の子供みたいな気分〜
放課後、校門前で律から
「怪我だけはしないでよ?
無事に終えられるように祈ってるから」
と、御守りと温かいお言葉を頂き
私は笑顔でバイバイした
そして、現在倉庫の中では
星竜みんなが暴走に向けての
最終確認中です
ルートの確認や他の族の動き
倉庫に残る人達への対応や指示とか
手慣れてる感が半端なくて
私は階段の上の方から座って観察中です!
姫なのに、何となくアウェーな感じがするのは気のせいでしょうか?
みんなの輪に入りたいけど
暴走族用語?がちんぷんかんぷんで
話に入り込めなくて早々に退散して
ここで1人待機中なんだけど
忙しいのは見れば分かるの!
でもね…誰か構って〜!!
寂しくて拗ねちゃうよ、私…
若干ブゥ垂れてる私に数段下から
声を掛けてくれたのは北斗だ
もう、準備できたのかなぁ?
「詩、おいで」
黒地に金糸で刺繍された特効服に
【星竜 15代目総長 流川北斗】の文字
普段は寂しがりの甘えたさんなのに
特効服を身に纏う北斗を見ると
総長なんだなぁと改めて実感させられる
少し距離を感じてしまう私は
片手を伸ばして呼ぶ北斗に
思わず飛びついちゃった!
だって寂しかったんだもん…
そのまま片腕に抱えられて倉庫の外へ出た
北斗の視線の先には…
真っ黒でつやつやな車が凄い威圧感を放って
停車してる
すっごい高級な車っぽいけど
そんな車が何故ここに??
首を傾げて北斗を尋ね見る
「この車は総長と姫しか乗れない車だ。
代々受け継がれてる車で、こういう
暴走の時に使う」
そうなんだぁ…
代々受け継がれている大切な車なんだね
乗れるのは総長と姫だけなのか…
この世界の事をまたひとつ知れた!
≪北斗はバイクに乗らないの?
みんなみたいに…≫
ノートに素朴な疑問を書いて見せた
車へ視線を向けたまま北斗は語り始めた
「普段の移動程度なら俺ももちろん
バイクに乗るが…
今回は姫のお披露目暴走だ。
その暴走中に抗争を仕掛けられたら
詩に危険が及ぶ。
抗争も大事だが姫を守ることが
何より1番の優先事項だ。
姫を守るのは仲間ももちろんだが
総長の俺の使命だ。
誰よりも傍で守る…
だから暴走の時はこの車に乗る。
そしてその車を守りながら
バイクに乗った仲間が走る。
それがお披露目暴走だ」
姫である私を守る為の措置…
守る為の最善策…
奏が何が起こるか分からないと
話してくれて覚悟してたつもり…
だけど、優先事項の1番が私だなんて
もし今日抗争が起きたら
私は守られ、みんなは怪我をするかも
しれない…
そう思ったらすごく怖い…
黒の特効服を着る北斗の胸元を
ギュっと掴んでぴったりと引っ付いた
私はみんなが怪我をしないように
祈る事しか出来ないの?
みんなが傷付けられるのが怖い
怖くて堪らないよ…
私の不安を読み取ったかのように
北斗の優しい声が降る
「詩が俺達を心配してくれるのは
すげぇ嬉しい。
俺も仲間が傷付けられるのは嫌だ。
けど、それが暴走族だ。
この世界に足を入れた時点で
危険や怪我は覚悟してる、俺も仲間も。
けど、俺や仲間には守るべき姫がいる。
守るべきものがあるやつは強くなれる。
それが詩、お前だ。
詩がいるから俺達は何があっても
無事に帰って来ようと思える。
帰りたい場所があって
そこに大切な人が待ってる…
それだけで頑張れる。
だから、詩には笑顔で待っていて欲しい
俺達の力の源は、詩だから。
笑ってお帰りって言ってくれるか?」
顔上げた視線の先には
優しく微笑む北斗
それが姫の、私の役目なら
みんなが頑張るなら私も頑張る
笑顔でお帰りって言うから
約束するから…
北斗も約束だよ?
絶対にただいまって
笑顔で帰って来てね?
北斗の目の前に小指を差し出した
「約束だ」
お披露目暴走まであと少し…
北斗と2人、笑顔で約束の
指切りげんまん!
北斗side
ついにこの日がやって来た
この日の為に綿密に計画を立てて
あらゆる想定をいくつも頭の中で
シミュレーションしてきた
詩に危険が及ばないように
笑顔で楽しんで欲しくて…
全ては詩の為だ
最後の確認を終えて周りを見渡すと
階段の上で詩は下で動く俺らを
見ていた
確認に必死になり過ぎて
放って置きすぎたか…
寂しそうにしてやがる
暴走まであと1時間を切った
お披露目暴走がどういうものか…
そしてこの暴走が俺達にとって
どれだけ大切かを教えてやろう
階段に近付き、詩を呼ぶと
すげぇ勢いで飛び付いてきた
やっぱ寂しかったんだな
詩を片腕に抱えて倉庫を出て
この暴走がどんなものかや
俺らの気持ちを話して聞かすと
俺の胸元にぴったり引っ付いてしまった
少し怖がらせたか?
いや…違うか
詩は俺らのことが心配なんだよな、きっと
どこまでも優しいからな、詩は…
だからこそ惚れたし守りたいと思う
そして他の星竜の奴らも
そうなんだろう
星竜にとって、詩は大切な人間で
絶対に守りたい存在
誰かに尽くすことが当たり前に出来て
何か見返りを求めるなんてことは
鼻から頭になくて
いつも温かい目で見守って
俺らを大切にそっと包んでくれる
詩が笑ってくれるだけで
俺らは心の中で嬉しいと思う
この笑顔を守るために俺らは
俺らのやり方を貫く
笑顔で小指を絡める詩に
絶対に守り抜くこと…
必ず詩の元に帰ることを誓った
詩side
今からお披露目暴走が始まります!
で、その前に総長である北斗が
階段の踊り場から暴走前のご挨拶!
「今日は星姫お披露目暴走だ。
何もないことを願うが、何が起こるか
分かんねぇ…
お前ら、気ぃ引き締めとけよ!
行くぞっ!!」
「「「うおおおおおっ!!!」」」
倉庫が揺れてるんじゃないか!?と
思わせるほどの声に、思わず肩が
ビクっと跳ねちゃった!
それぞれがバイクに跨り
エンジンを吹かす中
私は北斗と共に黒の車に乗り込んだ
窓から見えたみんなはいつもの
年相応の男の子ではなくて
目をギラギラさせて、でも真剣で
とてもカッコイイ!
バイクのランプがあちこちで輝いてて
真っ暗な空に浮かぶ星のようで
すっごく綺麗…
窓に張り付いて子供みたいに
はしゃぐ私
それを優しく見つめる北斗にも
お披露目暴走の運転手に抜擢された
下っ端の時田真也(ときたしんや)くん
通称真くんもミラー越しに笑っていたのも
私は知らない
そして…
「出せ」
北斗の声が聞こえたと同時に
沢山のバイクと車は動き始めた
片道2車線の道路を星竜のみんなが
バイク特有の音を響かせながら
走り抜けて行く
その姿はまるで羽根が生えたように
縦横無尽に動き回る
それはまさに圧巻の一言だ!
窓に張り付いてみんなを見つめていると
一台のバイクが近づいてきた
そのバイクの運転手は
茶色のウェーブを靡かせて微笑む
奏だった
慌てて窓を開けて手を振って
予め用意しておいたノートを
取り出して見せた
≪安全第一!気を付けてね!≫
それを見て優しく微笑みながら
頷いて前方へと去っていった
窓を開けたまま乗り出す勢いの私
完全なる無意識だったんだけど(苦笑)
北斗にちょっぴり怒られました…
「詩、楽しいのは分かってるが
あんまり乗り出すなよ。
落っこちそうで怖ぇよ…
まぁ、俺が一緒だからそんな事には
ならねぇけど」
余程心配なのか私の腰に腕を回して
落っこちないようにしてくれてるんだけど
私、そんなに鈍臭く見えてるの?
まるでお父さんと子供みたい…
プクッと頬を膨らませてみても
「そんな可愛い顔しても
駄目なもんは駄目だ。
窓から離れたくなきゃ大人しく
言うこと聞けよ」
と何とも意味不明なお言葉…
可愛い顔ってなに?
北斗、眼科に行った方がいいと思う…
あとでゆっくり教えてあげよう〜
とりあえず北斗の言う通りにすれば
窓から離れなくていいんだよね?
だったらここは大人しく
頷いておこうーっと!!
頷いて窓枠を掴んで後方に目を向けると
ものすごい勢いでこっちに
向かってくるバイク…
しかも2台も!!
どんどんと迫ってくるバイクには
ニカッと太陽みたいな笑顔の錬と
ニコニコ笑顔の天使みたいな奈留
並列で私に近付く2人
「詩!楽しんでるか〜!」
「詩ちゃ〜ん!楽しんでるぅ〜?」
と、言い方は違うけど
私を気遣ってくれる2人に笑顔で頷いた
「「俺(僕)らも、めちゃくちゃ
楽しいぜ(よ)!!」」
と同時にVサインする2人は
無邪気な子供みたいで可愛い!!
さながら、お母さんにでもなったみたい
≪安全第一!気を付けてね!≫
奏の時のようにノートを見せた
2人同時にVサインをして
来た時同様にものすごい勢いで
前方へと走り抜けてった
外見は全く違うのに
やる事も喋る内容もタイミングも
全部同じって…
ふふ、本当に仲良しさんなんだなぁ〜
1人クスクス笑う私の視界に
首を傾げる北斗が見えたけど
眼科の事も含めて後でゆっくり
教えてあげよう〜!
…なんて1人でほくそ笑んでいると
ーコンコン
小さな音がした
ふと視線を移した先には
無言の冬がいつの間にやら車と並走してて
すっごくびっくりしちゃった!
ジーッと見つめてくるだけで
何も発しない冬に笑顔でVサインしたら
「…(コクコク)」
と頷いて小さくVサインを返してくれた
そんな冬にもノートを見せた
≪安全第一!気を付けてね!≫
「…(コク)」
頷いて静かに走り抜けて行った
未だに頷く以外はしないけど
今日はVサイン返してくれて
すっごく嬉しい〜!!
少しだけ冬と近付けた気がして
本当に嬉しかったよ
その後も凛くんや幸くん、宏くんが
声を掛けてくれたり
他のみんなも手を振ってくれたりして
すっごく楽しめたの!
そして、無事何事もなく
お披露目暴走は終了して
倉庫に着いたら待機組のみんなが
笑顔で迎えてくれて
≪ただいま!すっごく楽しかった!≫
と書いて見せたの
そしたら、みんなに良かったね!なんて
頭を撫でられたりしてまた笑った
倉庫に全員集合したあと
北斗の締めの言葉…
「今日はお疲れさん。
無事何事もなく暴走を終えることが出来た。
今からその成功と姫就任の
パーティーだ。
思う存分楽しめ!」
その言葉にみんなからは喜びの歓声
「「「うおおおおお!!!」」」
「「「やった〜!!!」」」
さっきまでの少しピリッとした
雰囲気なんて全くなくて
いつもの無邪気な笑顔を見渡して
心の中で呟いた
≪みんな、お疲れ様!
無事に終えられて、こうして
みんなと笑顔でいれる私はすっごく
幸せ者だよ。
ありがとう!≫
ここは本当に温かい場所だね…
みんなが温かいからここも
笑顔で溢れる素敵な場所なんだと
思うんだ
これからもず〜っとみんなで
笑い合っていけたらいいなぁ…
ーーーーー
ーーーー
ーーー
じわりじわりと忍び寄る影が
すぐ近くに迫ってきている事も
あんな事が起きるなんてことも
私もみんなもこの時は
思いもしなかった…