「二井くんはここを歩いたこと、ある?」



「別に。通学路だから毎日見てる」



「そっかー」



白石はそれだけ言うと、薄く微笑んで、目を細めた。



「こういうところ、のんびり歩くと楽しいよね。



家に帰らないでさ、ゆっくーり自然を眺めるって、素敵じゃない?」



静かにそう言う白石は、見た目の割に清楚で、上品な性格らしい。



緑を眺めるのは嫌いじゃない。



青春をなくした俺から、1番暑かった夏を思い出させてくれるから。




「あぁ、そうだな。なんとなくわかる」




白石は俺のそんな答えに驚いたのかこっちを向いた後、ふふっと笑って前を向きなおした。



「二井くんのお家はここの近くなの?」



突然そんなことを聞いて何をする気だろう。



俺の家に来ても何もないけど。



「どうだろうな」



なんとなく、教えることもないだろう、と、言葉を濁す。



「ふーん」



白石は、無関心に相槌を打つ。