「俺は淋しいです。透子に会えない時間が疎ましい」


透子が驚いて目を見開いている。気がつけば順序も何もなく言葉が口をついた。


「会えないのは俺の都合で、俺の責任です。現状が恋人として不甲斐ないことも分かっています。

ただそれでも、俺が透子のそばにいないものだと見限らないで下さい」


「……っ、違うってば!

ああもうっ、急に何て顔してるのよー!」


彼女は動揺した時の常として髪に手を伸ばした。結った髪が崩れそうになり、「しまった」というように手を引く。行き場を無くした透子の指は、迷った後で控えめに俺の袖を掴んだ。



「勿論たくさん会えたら嬉しいし、淋しくないって言ったら嘘になるけど。

でも大丈夫だよ。

今は私が淋しいって思うのと同じように、……夏雪が淋しいって思ってくれるから辛くないんだ」


驚いた。


一緒にいられないことをお互いに淋しいと思っているのなら、辛くはない。矛盾するようでいて不自然と腑に落ちる。


透子の言葉は、俺が迷い込んだ袋小路の先を照らした。彼女はいつも易々と俺を引き上げてみせる。以前に彼女のそばから身を隠そうと決めた時もそうだった。


彼女は俺にとって、闇を払う灯である。


「……はい」


感謝やら愛やら伝えたい事が多過ぎて、何故かこういう時には無表情になってしまう。おまけにたいした言葉も出てこない。


結局、俺は単に彼女の口から「淋しい」と聞きたかったのだ。呆れるほど幼稚で身勝手で、自覚すると情けなくて顔が熱くなる。


「あれ、何か顔赤くない?熱あるの?」


「ありません」


「いや、普段の顔色と違うって!」


「問題ないです。その指摘は却下します」


額に伸ばそうとする彼女の手を避ける。触れば熱いと言うに決まっているからだ。透子の手では俺の検温はできないのだと、彼女は知る由もない。

Fin.