「一体どれだけ仕事してるの?体は大丈夫?」


「企画営業課にいた頃に比べれば余裕はありますよ。問題ありません。」


「本当?前みたいに無理して具合悪くなったら怒るからね」


「そんなことは、」


無いです、と言いかけて口をつぐむ。

彼女の前で体調が悪くなったのは企画営業課にいた頃の一度きり。当時は一般の会社員として過ごしながら空いている時間に本来の業務をしており、スケジュールに無理があった。


ただ、企画営業課にいた頃は毎日透子と会えた。


仮の立場を捨てた今、恋人として透子と会ったのは数える程でしかない。きっと俺は知らず知らずのうちに彼女に多くの負担をかけている。


「いつも仕事ばかりですみません。

透子にただ一つ立てた誓いさえ……二度と淋しいと思わせないと決めたことさえ、俺はまともに守れていません」


「そーゆーこと言ってほしいんじゃないの」


彼女に「ちょーーっぷ!」と手刀を落とされる。無論、痛くはないが意図がわからない。


ただ、彼女の付け加えた「だいたい淋しいなんて言ってないし!」という言葉の方が胸に刺さった。


「俺は普通の恋人同士がどんなものか知りませんが、普通はもっと頻繁に顔を合わせるのでは?」


「それは…きっとそうかもね。例えば週末にはデートしてどっちかの家に泊まったり。たまに仕事帰りにゴハン食べに行ったりとか」


なるけど、これは先々まで参考になる情報だ。

しかし実際に透子と二人でいられる機会はそれよりずっと少ない。

さらに言えば、透子の言う「普通」の基準が彼女の過去の恋愛から導かれているのかと思うと、わけもなく焦燥にかられる。


「夏雪に『普通の恋愛』に合わせてほしいなんて思ってないから、気にしなくていいよ」


彼女の寛容さを喜ばしく思うべきなのに、ひどく気が滅入る。その言葉は、恋人としての俺への期待はとても低いということを意味している。