電車に乗り込めば先輩は小説を開く。
勝手に付き纏っている身分で彼の読者タイムを妨害することは不本意だから、黙って昨日と同じようにイヤホンを耳につける。
ーー連絡先、教えてもらえませんか。
ストレートすぎるかな?
なにか切り出すきっかけは…。
既に2週間以上も付き纏っているだから、もう少し早く切り出せなかったものか。今更な感じがあるよね。
電車を降りて、学校までの10分弱の道のり。
そこで絶対に聞いてやる…。
何度も愛の言葉を口にしているくせして、連絡先の1つも聞き出せないことがなんだかおかしくなった。
告白してフラれることは一瞬。
だけど連絡先を聞くことができればーー
もしかしたらこれからも先輩との関係を続けられるかもしれない。
それが恋人というかたちでなくても。
一瞬のための勇気は出せたけれど、先輩との関係を続けるための勇気がないなんて。
笑っちゃう。
「昨日のことだけど。明後日、金曜の放課後はどう?」
小説から顔を上げた先輩と、バッチリ目が合う。