ここで抱き合って"離れていても友達だよ"なんて言ってみるのもいいかもしれない。

けれど口から出た言葉は意地悪なものだった。



「ふぅん、やっぱり寂しいんだ」


茶化してみせれば、雅美は眉を上げて怖い顔をした。



「もう協力してやんねぇ」


「冗談だよ、ごめんって」


「ジュース代、置いて帰れ」


「え?お金取るの?」


炭酸飲料の空のボトル。
その横に置いてあった携帯が鳴った。



「先輩から?」


「違う。先輩の連絡先、知らないもん」



カウンターから身を乗り出してディスプレイを確認した雅美はそこに表示された名前を見て、私の代わりに溜息をついた。


「メールか」


「うん。帰ったら返信するよ」


「そっか」


「私の留学したくないっていうワガママを両親は大反対だったのだけど、彼だけは味方になってくれたんだ。1年後、この恩は返すつもり。だから、」


携帯の音が止む。


「私が黒瀬先輩にフラれるように、協力して?全力で先輩を追いかけて、人生最後の恋がしたいの」


大袈裟かもしれない私の言い分に、雅美は2度目の溜息と共に頷いてくれた。