「君は戻って来るべきだと思う。仁くんの傍に居てやるべきだと思う」
父の言葉は続く。
「仁くんは誰にも弱音を吐けない。娘にすら愚痴を言えているか疑問だ。でも昔からーー君だけは、どんな些細なことでも言い合い、彼に1番近い存在だったろう。戻って来て欲しい。仁くんのために」
深く腰を折った父。
そんな父の姿を初めて見た。
見てはいけないもののような気がして、そっと踵を返す。
会社の経営のことはよく分からないけど、とても大変な時期なんだ。
「きっとそれは、仁が望みませんよ」
落ち着いた返事に、思わず足を止める。
「仁にとって俺はもう、弟ですらないです」
聞き慣れた声に振り返る。
聞き間違えるはずがない。
顔を上げた父と、死角に立つ人物の方へ駆け寄る。
「菜子?」
驚いた父の声を無視して、相手の顔を見た。
仁くんの弟ーー