お互いに先日のことはそれ以上に触れなかった。


看護婦さんが巡回に来たため、私も病室から出る。


手ぶらで来てしまったけれど、どこかでお花でも売っていないかな。
まだしばらく検査入院するって言ってたし、病室は明るい方が良いよね。


タイミング良く休憩スペースで父の姿を見つけ、尋ねようとすればーー父が口を開いた。



「仁くんへの圧力はとても凄い。期待する声と同じように、彼を蔑む視線もある。仁くんは優しすぎるから、それらを蹴落として進むことができないんだ」


父が語る仁くんの近況に耳を澄ませる。

柱が邪魔で話し相手の顔は見えないけれど、きっと会社の人だろう。



「ここ数日も上手くいかない案件が重なってね。相当にこたえていたと思う。ゆっくり休めていなかったのだろう。それでも無い時間を無理して作って、うちの娘の体育祭に来てくれてね。親代わりとして何もできないことが悔しい」


体育祭。
忙しい中、私のために帰国してくれた仁くんの身体と心が既にボロボロだったとしたら。
本当は泣きたいくらい弱っていたのだとしたらーー


私はそんな彼に、なんて言った?





『ーー私は、一度も、仁くんのことを異性として見たことはないの。愛してもいないよ』




彼の1番の支えが自分だと知りながら、なんて残酷な言葉を投げつけたのだろう。


自分の気持ちだけを優先させた結果だった。