どうして。
どうして、理想の王子様が傍にいるのに。
手の届かない、あなたを求めてしまうのだろう。
一緒にいる時間だって、仁くんといた長い月日には敵わない。まだあなたのことだって何も知らない。知らないことの方が圧倒的に多いのに。
黒瀬良斗は、
どうして私の心に居座るのだろう。
「菜子?」
ぼうっとしていた私の手をギュッと握り締めてくれた。
「ごめん。あまりに気持ちいい陽気だから、居眠りしそうです」
「そっか」
「仁くんの前だとリラックスしすぎちゃうね」
「良いよ、眠っても。菜子の寝顔はもう何度も見てきたしね」
「やめてよ、もう!」
仁くんの肩を乱暴に叩くと、彼は静かに目を閉じた。
「忘れられない?……例の先輩のこと」
呟きに近い問いに、胸が締め付けられる。
「それでも良いよ、彼を好きな君ごと僕のものにするから」
「…仁くんのことは好き。でも彼のことも忘れられないの。本当にごめんなさい」
美しい指輪の前で、どうして彼に謝らなければいけないのだろう。
どうしてーー。