美術館と隣り合った庭園をゆっくりと散策する。
涼しい美術館とは違う生温い風が心地よい。
綺麗な花々を見て顔を合わせて笑い、花言葉を教え合う。
「少し座ろうか」
噴水の正面に設置されたベンチに腰掛ける。
座る前に白いハンカチを引いてくれる優しい人だ。咲き誇る花のように綺麗な心を持った人なんだ。
「お誕生日おめでとう」
「え?」
「どのタイミングで言おうか迷ってたけど、ここが1番美しい場所だと思うからさ」
バッグから取り出した小さな箱を開けて、仁くんは照れたようにはにかんだ。
中に見えた輝く宝石と、指輪。
「バタバタしててまだ婚約指輪を渡せてなかったからね。良かったから受け取ってください」
「良いの?ありがとうございます」
両手で箱を受け取ろうとすれば、手を取られた。
そして優しく指輪をはめてくれた。
誕生日を覚えていてくれるだけでなく、サプライズプレゼントまで考えてくれて。
素敵な異性に好きと言われて、婚約までしてもらって。ずっとずっと大切にしてもらってーー私にはもったいないくらいの幸せを手に入れている。
それなのに。
軽いはずの指輪が重く感じてしまう心は、なんて贅沢なのだろう。