駅前のホテルに着き、部屋に荷物を運んだ。
「良かったら、菜子も泊まっていかない?」
窓の外を見ながらさらりと誘われた。
部屋に入った瞬間から気付いてたよ。
部屋の中心に2つのベッドが並んでいたことを。
「そうだね。せっかくだし!」
明るい声を出し、仁くんの隣りに立つ。
彼が望むことはなんでもしてあげたい。それが私の本心だから。
「いいの?」
「もちろんです」
躊躇いなく頷いてみせる。
「菜子を抱き締めて眠りたいと言っても?」
「……離れていた分の埋め合わせを私もしたいよ」
合ってるよね?
私が選んだ選択は、きっと間違っていないよね。
嬉しそうに笑う仁くんを見て、心が温まる。
私はこの人の哀しい顔をもう二度と見たくない。
これまで仁くんがどれほど苦労してきたか、ずっと近くで見て来た。
両親が亡くなり、唯一の家族である兄弟にさえ弱音を吐けない人だから。
私に向けての彼の願いは全て叶えてあげたいの。
それが私の幸せでもあるんだよね。