「菜子、ただいま」
「おかえりなさい!」
久しぶりに会う仁くんは少し変わっていた。
スーツ姿も見慣れない。
元々6歳の年の差があり大人びて見えていたけれど、その顔には日本を断つ前には見られなかった"自信"が表れていた。
確実に仁くんは成長していて、私だけが置いてきぼりにされている気分だ。
ううん、日本に残りたいと頼み込んだのは私の方なのにね。
「まずはホテルに荷物置きたいんだけど、いい?
」
「もちろんだよ」
キャリーバッグを持ってない左手を差し出され、そっと重ねる。
温かい手。
スポーツ少年だった名残があるベリーショートの暗い茶髪に、笑うと垂れる目。
変わらない部分に、安心した。
「本当に菜子に会いたくて毎日、飛行機に飛び乗りたい衝動に駆られたよ」
「ふふ、仁くんらしくないね」
「いや。僕は菜子がいないと生きていけないから」
隣りから聞こえるストレートな甘い言葉に、曖昧に笑うことしかできなかった。