「あ……」
帰り道の途中で雨が降り出して、わたしは折りたたみ傘を差した。
淡く立ちのぼる夏の匂いが全身を包みこむ。
その場にじっと立ち止まり、ぱたぱたと傘を打つ雨粒の音を聞きながら、バッグから短冊を取り出した。
――もしも願いが叶うなら。
ふと頭をよぎった言葉は、だけど完成することなく霧のように消えていく。
わたしは短冊を再びバッグにしまった。
それから傘を後ろに傾け、空を見上げて雨粒で頬を洗いながら、そっと瞳を閉じた。
雨は、やさしく降り注ぐ。
心を濡らして流れていく。
それはいつしか天の川になり、わたしのもとへと泳いでくる彼の姿を、今でも時々、夢の中だけで見るのだ。
-END-