8年という年月は、誰かを忘れてしまうには短すぎるのか充分なのか。
その答えはわからないけれど、時間とともに思い出すことがほとんどなくなったのは事実だ。
あの七夕の夜を最後に、彼とは一度も会っていない。
わたしはあのままバイトをやめて、賢二郎と入籍し、8年が経った。
妻として母として歩んできた生活の重みに比べれば、彼のいた短い日々は泡のように軽く、わたしの人生においてきっと重要な意味を持たない。
彼のまなざし、彼の声、彼の仕草。それらはすでに輪郭をなくし、柴崎良太という人が本当にいたのかすら、あやふやに感じてしまうほど。
なのに、どうしてだろう。
最後に見上げた夜空だけは、今でも鮮明に覚えている。
ふたりの上に広がっていた真っ暗な宇宙。
あの雨雲のむこうには、どんな星が輝いていたのか。
それを知ることはもう、永遠にない。