「ごめんな、夢希……ずっと待たせて……」
それは初めて触れた、彼の本音。
「俺、どんどん自信がなくなってたんだ……ほんとに夢希を幸せにできるんだろうかって……時間が経てば経つほど、よけいなこと考えて怖くなって……」
「賢二郎……」
ズキン、ズキンと心臓が悲鳴を上げる。
「でも、この仕事が成功したら……今度こそ夢希と結婚するって決めてたんだ……だから……」
へへっ、と賢二郎は笑って、そのまま深い眠りに吸いこまれていった。
幸せそうな寝顔。穏やかで、晴れ渡って、満ち足りたような賢二郎の寝顔。
もう我慢できなかった。涙がぽたぽたと、わたしのあごを伝って落ちた。
「……うっ……うぅー…っ」
いくら声を押し殺しても、うめき声のような嗚咽が喉からもれる。わたしは肩を丸め、自分の服の胸元を掻きむしるようにつかんだ。
体中が切り刻まれたように痛い。自責の念は何よりも鋭い凶器だった。
だけどどれほど痛くても、わたしが受けるべき罰としては小さすぎるのだろう。
こんなにも大切に想ってくれる賢二郎を、わたしは裏切ったんだ。柴ちゃんとの関係が一線を越えていないことは言い訳にならない。
だってわたしの心にはもう、柴ちゃんがいるから。
迷いなく賢二郎だけを愛していた昔の自分とは、もう変わってしまったから――
真っ暗闇の夜。出口の見えない深い穴の底で、わたしは声を殺して泣き続けた。