中島さんにお礼を言って別れたわたしは、賢二郎をベッドに寝かすと、その横の床にぺたりと座り込んだ。

かすかに聞こえる寝息。時計の秒針の音。震える自分の呼吸の音。

わたしは賢二郎の顔を見つめながら、さっきの言葉を反芻した。


『先月から任された企画がめちゃくちゃ忙しかったんですけど、夢希さんのために頑張るんだって言って朝から晩まで働いて』


……わたしは、いったい何を。
賢二郎がわたしのために頑張っている間、わたしは何をしていたの。


『あいかわらずお仕事忙しいの?』

『まあ忙しいよ。でも……』


ふいに以前の会話を思い出した。“でも”の続きを賢二郎は言わなかった。
だけど今ならわかる。わたしを想う言葉が、きっとそこにあったことを。


「……夢希ぃ」


うっすらと目を開けた賢二郎が、ろれつの回らない声でわたしの名前を呼んだ。

意識はほとんど眠ったままだろう。寝言のような口調で、だけど懸命に何か伝えようとしている。