エレベーターで上がり、部屋の玄関の前にたどり着いた。
ほとんど中島さんに預けていた賢二郎の体重を、わたしの肩に移動させる。
「ここで大丈夫ですか?」
「はい、もう寝かすだけなんで大丈夫です。今日は本当にご面倒をかけて、すみませんでした」
そのとき、思いがけない言葉が中島さんの口から出た。
「いえいえ、逆にラッキーでしたよ。以前から夢希さんにお会いしたいと思ってましたから」
「え?」
なぜわたしの名前を知っているのか、なぜ会いたいと思っていたのか。
疑問をそのまま顔に出したわたしに、中島さんが柔和な笑顔で言葉を続けた。
「いつも夢希さんの話を聞いてたんです。賢二郎さん、先月から任された企画がめちゃくちゃ忙しかったんですけど、夢希さんのために頑張るんだって言って朝から晩まで働いて。
今日ね、やっとその仕事が完了したんですよ。それで嬉しくて飲みすぎちゃったんでしょうね。酔っぱらって夢希さんのノロケ話するから、みんなに突っ込まれてましたよ」
「………」