捕らえられた手を振りほどこうと思えば容易にできたはずだ。なのにわたしは金縛りにあったように、まったく動けなくなってしまう。

柴ちゃんはもうひとつの手をわたしの顔の方へと伸ばし、やはり淡々とつぶやいた。


「唇、赤い――」


触れるか触れないかの強さで唇の表面をなぞられて、甘美な電流が脳まで突き抜けた。かすかに開いた口元からもれる熱い息が、彼の指先を湿らせる。

わたしは今にも消えそうな声で懇願するように言った。


「やめて」

「夢希さんの方こそ、そんなかわいい反応すんのやめてください」


もっと見たくなる。そうつぶやいた柴ちゃんが、わたしの唇の間に指先を侵入させてくる。体中の神経が口内に集中し、指の動きひとつひとつに翻弄されてしまう。

目の前の彼はもう、完全に男の目をしていた。そしてきっとわたしも今、女の目で彼を見ているんだろう。


とうとう、こうなってしまった。
初めから予感はしていた。
出逢った瞬間からわかっていた。


惹かれてしまうこと、引き寄せ合ってしまうこと、こうなることを自分が望んでしまうこと――