「ていうか雨だと天の川が増水しちゃって、ふたりは会えないんだよ。密会どころじゃないし」
「へえ、そうなんだ。俺なら、雨でも天の川を泳いで会いに行くけどな」
「さすが元水泳部だね」
無理やり明るく話す自分の声が上滑りしているのを感じていた。間を持たすように、残りのビールを一気に飲み干す。
そうして空になった瓶を唇から離し、テーブルにそっと置くと、コン、という微かな音がやけに大きく響いた。
「………」
電球がぷつりと切れたように、途絶えた会話が静寂に吸い込まれていく。呼吸すらためらうほどの沈黙。
気まずさに耐えられなくなったわたしは、テーブルの上で空っぽの瓶に両手を添えて、意味もなくラベルの絵柄を爪先でコツコツと叩いた。
ふと、自分の横顔に視線が刺さっているのを感じた。
その視線の方向、隣の柴ちゃんを思わず見ると、体をこちらに向けて座った彼がじっとわたしを見つめていた。
見透かすような、同意を確認するような、さまざまな思惑を含んだ瞳。
何……?とたずねるより先に、柴ちゃんが口を開いた。
「俺とふたりだと緊張しますか?」
「え……」
「指、震えてる」
テーブルの上のわたしの指を、柴ちゃんがそっと捕まえた。ビクッと肩を震わせるわたしをよそに柴ちゃんは落ち着いた態度で、重なるふたりの手を見つめながら
「色白いな、夢希さん」
と、淡々と感想を述べるような口調でつぶやいた。