【夢希さん、おはよう。今日は中番でしたっけ?】

【おはよ~。うん、中番です。柴ちゃんは?】

【俺、遅番なんだけど、夢希さんがいるなら早めに入ろうかな】

【ほんとー?じゃあ、またあとでね!】


あれから10日あまり。柴ちゃんとはバイトで顔を合わす以外にも、毎日のメッセージのやり取りが続いている。


【ただいま~。今バイト終わって帰りました】

【おかえりなさい。柴ちゃんもお疲れさま】

【夢希さんもお疲れさま】


他愛ない毎日の会話。そこにはハッキリとした男女の言葉はなく。

けれどいつのまにかわたしを下の名前で呼ぶようになった彼は、もう、まぎれもなくひとりの男で。


【夢希さんって学生のとき、何かスポーツしてたんですか?】

【バレー部で万年補欠でしたよ~。柴ちゃんは何かしてたの?】

【俺は高校まで水泳部です】

【そうなんだ!わたしカナヅチだから泳げる人うらやましい】


学生時代の話、好きな作家の話、兄弟の話。

ひとつのパズルをふたりで作り上げるように、わたしたちは自分に関する様々なピースを出し合った。

お互いのことを知っていくにつれ、パズルの絵は少しずつ完成に近づいていく。

けれど、いまだに埋まらないピース――賢二郎の存在を、わたしは柴ちゃんに打ち明けることができずにいた。