バイトを始めてからはそれなりに忙しく日々が過ぎ、気づけば1ヶ月近くがたっていた。
慣れない仕事で足手まといになりがちなわたしを、柴ちゃんが要所要所でサポートしてくれるおかげで、少しずつ仕事に慣れていくことができた。
柴ちゃんは基本的に遅番のシフトだけど、大学のスケジュールによってはわたしと同じ中番に入ることもあった。
逆にわたしも、時々遅番の人手が足りないときはヘルプで入ることもあり、顔を合わせる機会が多くなっていた。
「あ、これ、前に好きだった曲だ。何だっけ」
客室から漏れてくるカラオケのイントロを聴いて、わたしが何気なくつぶやくと、
「クリープハイプの“憂、燦々”ですね。俺も好き」
すかさず柴ちゃんが答えてくれる。
「お~、イントロでわかるなんてさすが柴ちゃん。音楽詳しいですよね」
「ていうか、相沢さんの好みと俺の好みが似てるんですよ」
彼の言うように、たしかにわたしたちの好みは驚くほど似通っていた。
音楽の趣味も、好きな食べ物も、笑いのツボも。
柴ちゃんとの共通点を見つけるたびに、わたしはなんとなく嬉しくなった。
それは自分がありのままいられるような、
理解者を見つけたような不思議な感覚だった。