「えっ、相沢さんも格闘技好きなんですか?」
おかわりしたビールを口元に運びながら、柴ちゃんが目を丸くした。
「うん。昔から大好き」
「俺もです。でも意外だなあ、相沢さんの口から格闘技の話題が出るとか」
「え、そう?」
「そうですよ。ほんと相沢さん、見た目のイメージと違いますよね。酒飲むとよく笑うし、ていうか笑いのハードル低すぎるし」
「それは柴ちゃんがおもしろいからだよー」
お酒のせいか、呼び方が本人の前でも自然と“柴ちゃん”になり、口調も砕けたものになる。
柴ちゃんもわたしに対してフランクな接し方だけど、やっぱり敬語がベースにあるのは年齢のせいだろうか。
彼みたいな若い人から見たら、少しの歳の差でもオバサンだろうし。
なんて年寄りじみたことを考えていると、バッグの中でスマホが震えた。
実家の母親からだ。
わたしはお手洗いに行くふりをして席を立った。
「もしもし」
『あ、夢希。あんた全然連絡してこないけど元気にしてんの?』
「うん。それなりにやってるよ」
店内は騒がしいので、店の外のフロアに出た。廊下をはさんで他にもいくつか居酒屋の入り口が並び、それぞれの店から笑い声が聞こえてくる。
大きな窓の前に立つと、雑多な夜の街並みが眼下に広がった。